画像: #26 手さぐりのウエディング その3

夜中の社会科授業

先日は私が関わっているLGBTファミリーの会「にじいろかぞく」の定期交流会でした。今回は赤ちゃん連れも多くて、とてもにぎやか。会うたびに大きくなっていく子どもたちの様子をみていると、すっかり親戚のおばちゃんのような気持ちです。子育ての終わったメンバーさんが、子どもたちと遊んでくれたりするのもありがたい。それにしても会をやるたびに “家族って多様だなぁ!” と驚きます。

さぁ今回は、結婚式のおはなし、第3回目。ほんとに長くてすいません。結婚はできなくても、同性カップルでも結婚式はできるんじゃない……? と、おそるおそる式をすることにした8年前のお話の完結編。

2年越しの準備もいよいよ残すところ半年となり、ホテル、着るもの、そして結婚式の内容が着々と決まり、招待する人を決める段になりました。LGBTの友達や、学生時代の友人にはカミングアウトしているので良いのですが、問題は近所のママ友でした。子どもを通して出来たママ友の中には、シングルママたちの集まりがあり、ずっと近所で支えあっていたのです。

みんな子どもが小さいうちに離婚し、不安定な中での育児に苦労していました。時には気晴らしも必要と、よく土曜の夜に集まっては夕飯を食べていました。みんな麻ちゃんとも顔見知りなのですが、近所へのカミングアウト、特にママ友へのカミングアウトは難しいのです。でも次第に“離婚という苦境を乗り越えたママ友になら話せる”と思い始めました。ある日、特に仲の良いママ友に、思い切って話してみました。

「えぇー!!! そうなの!! 知らなかった! で、みんなは知ってるの?」まだ話してないと言うと「みんなにも言おう!」と、ほかのママ友3人にも打ち明けたのです。麻ちゃんはもともと、ノンケ女性にウケが良く、みんな「麻ちゃんなら分かるわー」と、言ってくれたのも幸い(?)しました。

招待リストに入れるかどうか、最後まで悩んだのが “家族” でした。特に私の両親は努力に努力を重ね、私たちの関係を理解しよう、受け止めようとしている真っ最中。しかし、結婚式に出席するほどには心の準備が整っていません。これ以上ショックを与えるのは、忍び難いものがありました。それから私の3人の兄弟についても “全員を呼ぶのも……、かと言って誰かだけ呼ぶのも……” とズルズル悩み、結局誰にも言わないままにしてしまいました。一方の麻ちゃんは、両親との関係が順調ではなかったので、結婚式には呼ばず、仲の良い妹夫婦を呼びました。

この家族を呼ぶ、呼ばない問題の、もうひとつの大きな壁が “子どもたち” でした。「子どもたちは呼ばず、2人きりでのウエディング……」なんて浮ついたことを言っていたのが、気がつけば人数は膨れ上がり、スイートルームはいっぱいいっぱい。この家族は、子どもたちを育てる基盤そのものだから呼びたい。と言っても、結婚式に子どもたちを呼んだら、それは子どもたちへのカミングアウトになります。小さい頃から、お互いの好意は隠していませんが、言葉にはしていません。「まだ小さいし」「理解できないし」と言い訳をして、ほっておいたけれど……。このことで私たちは、いつも喧嘩になりました。麻ちゃんは「家庭内に嘘があるのはよくない。子どもたちに言うべき」というカミングアウト推進派。私は「カミングアウトしたら、それを言えない場面で子どもたちに嘘をつかせることになる。親の事情を子どもたちに背負わせたくない」というカミングアウト否定派です。2年におよぶ準備期間中、ずっとこの火種がくすぶり続けていました。

いよいよ結婚式が2ヵ月後に迫った頃のことです。すでに離婚から何年も経っているのに、離婚を受け入れず「パパと再婚してほしい」と、下の子は言い続けていました。麻ちゃんは「いつ話すんだ?」という無言のプレッシャー。その板ばさみで、私の中の何かが弾けました。

「あのね、ママは麻ちゃんと結婚式するの。だから、もうパパとは再婚しないんだよ」とうとう言った……。ドキドキする私に、小学校高学年だった上の子がこう言いました。「えー、女同士は結婚できないんだよ!」

ウッとなる私の横から、麻ちゃんが登場! こういう場面にとても強い麻ちゃんが、颯爽とこう言い返しました。

「女同士が結婚できる国もあるよ。同性同士でも結婚できる国もあるし、同性カップルだって分かったら死刑になる国もあるんだよ」

目を丸くする子どもたちを前に、麻ちゃん先生の社会科の授業が始まりました。上の子は社会が得意で、法律違反になるのではないかと不安そうでした。そんな上の子に、麻ちゃんはニッコリ笑ってこう言いました。

「日本では同性カップルは結婚できないけれど、法律違反になることも、罰せられることもない。結婚式をやっても、何も問題ないんだよ」

そして「ママと麻ちゃんみたいな人たちのことをLGBTって言ってね……」と、この夜は遅くまで盛り上がりました。下の2人はまだ小学校に入ったばかりで、ポカンとしているばかりでしたが。

再婚を求めていた下の子は、近所の人はもちろん、道ゆく人にまで「ママがパパと離婚したの」と話すような子どもでした。そんな子にカミングアウトしたら、学校でも話すだろうと覚悟していましたが、結局、外でこの話をすることはありませんでした。高校生になった下の子に「なんで言わなかったの?」と聞いてみたけれど、「んな、小さい時のこと覚えてねぇわ」と迷宮入り。小さい子どもなりに、感じるところがあったのかもしれません。

いよいよ準備も大詰め。4月の子どもの進級も重なりバタバタしていた頃。その日は仕事で遅くなるので、母が子どもたちの面倒をみてくれていたのですが、なんとなく母の様子がよそよそしい。「なんだろう?」と思っていたら、帰りがけになって母がこう言うのです。

「麻ちゃんと結婚式、やるんですって?」。ゴールデンウィークの予定を訊かれた子どもたちから、まさかのリーク! 母はすっかり機嫌を損ねるし、かと言って今さら誘っても来てくれないし、結局平謝りです。

 

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