画像1: #16 料理研究家・コウケンテツさんの読み聞かせは、子どもに質問を投げかけてみること。

今月の人。

画像: 今月の人。

料理研究家
コウケンテツさん
1974年、大阪府生まれ。韓国料理研究家の母・李映林のアシスタントを経て、2006年に料理研究家として独立。母から受け継いだ韓国の味に加え、和食、イタリアン、エスニックと幅広いジャンルに精通し、旬の食材を生かした簡単でヘルシーなメニューを提案。雑誌、書籍、テレビ、イベント、講演会など、多方面で活躍する。出演番組に『コウケンテツが行く アジア旅ごはん』(NHK BS1)、『おかずのクッキング』(テレビ朝日系)、著書に『コウケンテツのおやつめし』シリーズ(クレヨンハウス)、『コウケンテツのおやこ食堂 毎日のごはんからスイーツまで、全61レシピ』(白泉社)など。1男2女のパパでもあり、自身の経験をもとに、子どもの食育、男性の家事・育児参加、食を通してのコミュニケーションを広げる活動に力を入れている。

 

読む人によって、
手に取る時々によって、
新たな解釈が生まれる名作

『おちゃのじかんにきた とら』

作・絵:ジュディス・カー 訳:晴海耕平 ¥1400/童話館出版

ある日、ソフィーとお母さんがお茶の時間にしようとしていると、「ごめんください、お茶の時間にご一緒させていただけませんか?」と毛むくじゃらのトラがやってきました。お母さんは言いました。「もちろんいいですよ。どうぞおはいりなさい」。トラは二人がすすめる食べ物を次々と食べ続け、ついに家中の食べ物も飲み物もぜんぶ食べつくしてしまうのですが……。

「トラって、心理学的にプライドや権威を表すなど、意味をもたせやすいキャラクターですよね。このトラをどうとらえるかは、読み手によって、まったく変わってくる。また、その時々の自分の状況によっても、トラをいろんなものに置き換えて読むことができるんです。一見、かわいらしいファンタジーですが、示唆に富んでいる名作中の名作ですね。すべてのシーンがハイライト。大人もシビれるというか、鳥肌が立つレベルの絵本です」

画像: 『おちゃのじかんにきた とら』

Illustration:Kashiwai

 

おもちゃではなく、絵本をおみやげに
絵本は想像力を育てる最高のアイテム

撮影やロケ、イベント、講演会など、国内外を問わず、日々、各地を駆けまわっている料理研究家のコウケンテツさん。小3の長男、年長の長女、1歳の次女と3人のお子さんがいる彼の自宅には「寝室にも、子ども部屋にも、リビングにも、僕の仕事部屋にも」とにかく絵本がたくさんある。

「子どもって、すぐに『おもちゃ買って』ってなりますよね。僕も一時期、子どもが喜んでくれるから、出張に行くたびにトミカとかリカちゃんとか、おもちゃを買って帰っていたんですよ。そうしたら、ある日、奥さんに『子どもに何かおみやげを買うなら、絵本がいいんじゃない?』って言われて。それ以来、出張先の駅近くの本屋さんで絵本を探すようになったんです」

コウさんが絵本を選ぶときに大切にしているポイントは「読む人によって、感じ方や解釈が変わる深さがある」こと。それは、自身が小説に求めるものと変わらない。

「子どもたちはどんな絵本でもすごく喜んでくれるのですが、僕が子どもに特に読んでほしいなと思うのは、ストーリーや作者の意図が分かりやすい絵本より、読んだ後に「この本は何を伝えたかったんだろう」と、僕ももう一回読みたくなるような絵本。その点、『おちゃのじかんにきたとら』は、読む人に解釈をゆだねる絵本。最初読んだときに、すごいなと衝撃を受けました」

お茶の時間に、突然、大きなトラが家にやってきて、お茶とおやつだけでなく、作りかけの夕ご飯も、冷蔵庫や戸棚の中の食べ物や飲み物も、果てはバスタブに張った水まで、ぜんぶ食べつくし(飲みつくし)、去っていくというストーリー。

「え? 街中にある家なのに、なんでトラ? なんでこの母娘はトラを受け入れるの? って、ドキドキするうちに、話がどんどん進んでいく。さらに印象的なのは、登場人物全員、感情が高ぶることなく、表情がいつも穏やかなんですよ。ここでお母さんや女の子がギャーッと叫んだり、トラが暴れたりすると、関係性がぜんぶくずれてしまうんですよね。

仕事が終わって帰ってきたお父さんも、ふつうなら『何やっているんだよ。家の食べ物をぜんぶあげるなんて!』って怒るところ、『お父さんにまかせなさい。いい考えがあるよ。コートをきて、レストランにいこう』ですからね。こんな親父になりたいなぁっていう理想像ですね。お父さん、オシャレだし(笑)」

ちなみに作者のジュディス・カーは、著名なドイツ人作家の娘としてベルリンに生まれ、ナチスの迫害を逃れて、1933年に家族とともにドイツを離れたという経歴の持ち主。

「その経歴を知ると、トラに対する印象がまた変わってくるんですよ。たとえばトラを、自分の今の悩みに置き換えて読むことができる。人が恐怖とか不安を抱えているときって、生活がそれにのみこまれてしまいそうになるわけです。でも、その恐怖は、アイディア次第で、もしくは対処の仕方次第で、乗り越えることができる。力に力で対抗するのではない、という境地。負の感情に左右されなくなるんです」

このように感じ取ることができるのは、人生経験を積んだ大人だからこそ、と決めつけるのは早い。コウさんの場合も、読み聞かせの当初は「トラが冷蔵庫の上にのっている~」などと純粋にファンタジーとして楽しんでいた子どもが、ふと「このトラさんは本当にトラなのかな?」とつぶやいたことがあったという。子どもの感受性はけっこう鋭いのだ。

「だから、この絵本は子どもに長く読み聞かせたいし、大人になっても、また読んでほしい。進路を考える高校生の頃とか、就職活動のときとか、結婚するときとか……人生の節目ごとにこの絵本を読むと、さらに深みが増すと思います」

 

子どもに読み聞かせをするときは
ちょっとだけ質問を投げかけてみる

絵本の読み聞かせをするタイミングは、夜、子どもたちが寝る前。幼い頃から、それがルーティンになっていたので、読み終わると、子どもはスッと自然に眠りにつく。読み聞かせはコウさんの役目だが、今では長男と長女は自分で読むようになった。

「そのへんはだいぶラクになりました。長女は気分によって『また読んで』って言ってきますけどね。毎晩、読み聞かせをしていた頃は、僕のほうがウトウトしちゃうことがしょっちゅうあって。長女はずっと僕の顔を見ながら『もうムリ? もうムリ?』って聞いてきて。『ごめん……今日はもう無理やわ……』っていう日もありましたねぇ(笑)」

長男、長女と、絵本の読み聞かせを何年も続けているうちに、コウさんの読み聞かせ方にも少しずつ変化が出てきた。

「長男が幼かった頃は、仕事がものすごく忙しかったこともあって『早く寝てくれ~』って思いながら、ただ単に読んでいたんです。でも長女のときは、僕も子育てに慣れてきたので、『え? 何これ? パパ、ちょっと意味が分かんない。どういうこと?』って、たまにちょっと質問を投げかけるようにしたんですね。

そうすると、子どもなりに一生懸命考えて『パパ、こういうことだよ』って、がんばって答えてくれる。だからなのか、やっぱり長女の読解力はすごく高いんです。もう長男には『ほんまごめんなー』って謝りたい(笑)。なので、親が上から目線で説明するスタンスじゃなくて、あえてちょっとバカになって子どもに質問するっていうのは、絵本を読み聞かせするときに意外と大事なことなんじゃないかと思っています」

 

いつだって子どもの興味を惹きつけるのは、おいしそうな食べ物と動物が出てくる物語

今回、コウさんが紹介してくれた絵本は、それぞれテーマやテイストは違えども、どれも“食べ物”が出てくるところが共通している。

「うちの子どもたちは、幼い頃から僕の仕事を認識していたこともあって、やっぱり食べ物が出てくる絵本に食いつきやすいですね。他にも、たとえばかこさとしさんの『からすのパンやさん』では、いろいろな種類のパンが出てくる見開きページになると、しばらくくぎづけです。必ず『パパはどれが好き?』と聞いてくるので、『今日はこれ』、『私はこれ』と会話が盛り上がっちゃって。寝る前に読むと、大変なことになります(笑)」

家では毎日、子どもと一緒に料理をする。2歳の頃からキッズ用のフライパンや包丁で料理をしていた長男は、今や家に遊びに来た友達が「おなかがすいた」と言うと、ソーセージをパパッと焼き、キュウリやトマトを切って、セットにしてふるまうことも。

「この間、長女が保育園で“楽しいこと”というテーマで絵を描いたんですよ。それが、パパとお兄ちゃんが台所で料理を作っている様子を、ママと自分がテーブルで楽しそうに見ているっていう情景で(笑)。奥さんが絵を見ながら『うちはレアケースなのかな』と言ったら、長男が『そんなのおかしいじゃん。料理はママが作るって、誰が決めたの?』って反論していました。

僕も“食卓”って、みんなで作るものだと思うんですよ。誰の役割でもなく、家族みんなでやる。だから料理を作らない人は、せめて『おいしい、おいしい』と言って、食卓の雰囲気を盛り上げてほしいですね(笑)。食事のシーンや食べ物が出てくる絵本って、世の中にたくさんあるので、そういう絵本を通して、子どもたちが自然に食に興味を持って、みんなで食卓作りに関わろうと思えるようになったらいいですよね」

 

【コウケンテツさん、これもオススメ】

空に浮かぶ動物たちの
ビジュアルの楽しさ
ブキャ! の叫び声に
子どもたちは大笑い

『キャベツくん』

作:長新太 ¥1300/文研出版

「ぼくをたべると、キャベツになるよ!」「じゃあ、ライオンがたべたら?」おなかがペコペコなブタヤマさんと、ブタヤマさんに食べられそうなキャベツくんの、スリリングな状況で繰り広げられる会話のおもしろさにワクワク。キャベツくんの「こうなる!」という答えとともに空に現れる、からだの一部がキャベツになった動物たちの姿もインパクト大で、読み聞かせの時間が大いに盛り上がります。第4回「絵本にっぽん大賞」受賞。

「自分が食べられそうになったときの、キャベツくんのとっさの切り返しがすごい。キャベツになってしまった動物たちを見て、ブタヤマさんが『ブキャ!』って驚く場面では、必ず子どもたちがゲラゲラ大笑いするんですよ。もう毎回、次の『ブキャ!』が出てくるのを待ちかまえながら聞いています。純粋に、家族みんなで笑いながら読めるという良さがありますね。あと、うちの長男は小さい頃、キャベツが苦手だったんですけど、この絵本を読んでから、すごく興味を持ったらしく、キャベツを食べるようになりました(笑)」

 

画像: 『キャベツくん』

Illustration:Kashiwai

 

子どもが感情移入できる
壮大なストーリー
ページに開いた
小さな穴の仕掛けも魅力

『はらぺこあおむし』

作:エリック・カール 訳:もりひさし ¥1200/偕成社

日曜日の朝、卵からかえった小さなあおむし。月曜日にはリンゴ、火曜日には梨……もりもり食べ続けて大きくなったあおむしは、やがてさなぎになり、何日も眠った後、最後は美しい蝶へと変身します。まだ物語を理解できない赤ちゃんも楽しめる穴の開いた仕掛けのページ、大きくなった子どもも楽しめる数や曜日の認識を織り込んだストーリーなど、子どもたちを長く魅了する要素が満載。世界中で愛され続けている絵本作家エリック・カールの代表作。

「僕自身、子どもの頃は絵本をたくさん読み聞かせしてもらいましたが、今でも鮮明に覚えている絵本第1位といえば、やっぱり『はらぺこあおむし』になりますね。物語の何が楽しいって、主人公が成長していく様を見られることなんですよ。主人公に自分を投影できて、ワクワクする。この絵本はその最たるものですね。もちろんエリック・カールの絵の生き生きとした色使いもすばらしい。食べ物が出てくるページでは『何これ!? おいしそう~、こんなふうにちょっとずつぜんぶ食べた~い!』って本気で思っていました(笑)」

 

どっかーん!!!の名シーンと
お説教のオチ
時代劇のようなお約束の展開にニヤリ

作:工藤ノリコ ¥1200/白泉社

おいしそうなパンが気になるノラネコぐんだん。夜になると、ワンワンちゃんのパン工場にこっそり忍び込み、見よう見まねで勝手にパンを作り出します。とにかく大きなパンをおなかいっぱい食べたいからと、小麦粉、牛乳、卵、砂糖、塩、そして、ありったけのふくらし粉をぜんぶ入れて焼き上げるのですが、はたして……!? 食いしん坊のノラネコぐんだんが大騒動を巻き起こす、超人気「ノラネコぐんだん」絵本シリーズの第1弾。

「ノラネコぐんだんのシリーズは、毎回何かが、どっかーん! と爆発するシーンと、最後に『あなたたち、こんなことしていいと思っているんですか』と叱られるお決まりのオチがあって、それがすごくおもしろい。ノラネコぐんだんは見た目はかわいいんですけど、絵本にはめずらしく、ちょい悪なキャラクター。子どもがやってみたいことを、もっともっと破壊的にやってしまうんですよね。まさに子どもの夢を叶えるような存在なんです」

 

Illustration:Kashiwai Text:Keiko Ishizuka Conposition:Shiho Kodama

 

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