ロマンティックと狂想のはざまで

ある夜のこと、何かのきっかけでウエディング・ドレスの話が出ました。「き、きたー!」。これはチャンスとばかりに、麻ちゃんに「結婚式するなんてどう?」と切り出しました。私はカミングアウトしていないし、親も大反対でしたから、誰も来てくれないだろうと「二人きりの結婚式をしたらいい」と思っていました。

麻ちゃんと私だけ。
二人だけの記念になるウエディング。
どこか蔦の絡むような小さな教会で、
花冠をかぶって、
花束は野の花を摘んだような……。

なんと乙女な! でも、これならできそうだし、何と言ってもロマンティックです! ドキドキしている私に、麻ちゃんはニコニコと「いいね!」と言いました。「やったー!」と思ったのも束の間、麻ちゃんはこう続けたのです。

「なら、私は美川憲一みたいな格好して出たいなー! 全身金の刺繍とか入った、ビロードの服とか着てさ。あ、ブラック・ジャックみたいな格好もいいかも!」

コスプレ!? この人がイメージしている結婚式って、コスプレ大会なの!?

その後も延々と「誰々みたいな格好を!」と言い続ける麻ちゃん。しまいに、ルイ何世かに扮装しそうになったあたりで、乙女心とロマンティシズムを踏みにじられた私がブチ切れました。「ちょっと! 私、真面目に話してるんですけど!」 ギャーギャーと半泣きで結婚式の夢を語る私に恐れをなした麻ちゃん。神妙な顔で「本気だとは思わなかった」とボソリ。

あぁ、結婚式の準備が始まる前から、波乱の予感しかありません。

それから数日後。「春ちゃんの気持ちは分かった。周囲の人全員にカミングアウトして、盛大な結婚式をしよう。親や友だちだけじゃなく、近所の人も呼ぼう」と、真面目な顔の麻ちゃんが言うのです。「えぇぇ!」 仰け反る私を前に、麻ちゃんはいたって真剣。どこをどう間違えたらそういう方向に行くのか、皆目分かりません。でも、麻ちゃんなりに結婚式について考えた結果、“結婚式” イコールお披露目であるから、世の中に向かってフルカミングアウトをしよう” と思いついたのです。

なかなかどうして、ロマンティックには話が進みません。花冠をかぶって、キャッキャ、ウフフ、みたいなことをしたいだけなのに、麻ちゃんは「社会的意義がー!」「政治に訴える必要がー!」なんて熱く語っています。なにしろ見たことも、聞いたこともない “LGBTの結婚式”。私たちなりの “結婚式の定義” から始めなければならなかったのです。

さんざん揉めて、あっという間に半年が過ぎました。話し合いの結果、ロマンティックとフルカミングアウトの中間をとり、ホテルのスイートルームでプライベート・ウエディングを、というところまで詰めました。そこで問題となったのが、ホテルです。“同性カップルでも、結婚式をさせてくれるのだろうか?” ここで断られたら、ものすごく傷つきそうです。

そこで麻ちゃんが「ホテルの婚礼係の人に手紙を書いてみよう」というアイデアを出してくれました。素晴らしい思いつきです! そうと決まると行動の早い麻ちゃん、あっという間に10通ほど書き上げて投函しました。それから返事が来るまでの2週間は、とても長く感じられました。(つづく)

 

画像: ロマンティックと狂想のはざまで

Composition:Yoshiyuki Shimazu

 

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