画像: #18 その時、恋のイントロが鳴り響いた

理解し合える? ハハッ、ご冗談でしょ?

ただいま、私は麻ちゃんとケンカ中です。原因は、麻ちゃんが何の相談もなく、転職を考えていたから。おまけに「決まったら、地方へ転勤するかもしれない」などと言いだす始末。当然「なんで相談してくれないの!?」と詰め寄ると、麻ちゃんは「まだなにも決まってないのに、相談なんかできない」と言うのです。いや、そこはまず相談でしょ!

私たちは、元々ひどくケンカの多い組み合わせで、さすがに十数年も付き合っているので、回数は減りはしたのですが、食い違いは日常茶飯事。相手の言っていることを、お互いほとんど理解していないのだからしょうがありません。世の中には、ケンカを全然しないカップルもいますが、そっちの方がびっくりです。どうすれば、そんなに相手を受け入れたり、理解できるのでしょう!?

「パートナーは同性です」と言うと、時々「あぁ羨ましい、理解し合えるでしょう。男とは違って!」という、ノンケ女性の悲痛(?)な声を聞きますが、残念ながら、私たちは女同士でもなにも理解し合えていません。「性別が男だろうが女だろうが関係なく、理解し合えないものは、理解し合えない」と、考えると落ち込むので、そこは無理やり「こんなに理解し合えないのに、長年一緒にやってきたなんて、ある意味すごい!」と、ポジティブに考えるようにしています。

 

ツートンカラーの人

麻ちゃんとの出会いを聞かれると、私は大抵「飲み会で一目惚れした」と説明しています。でも実は、一目惚れの前に0回目とでも言うべき、出会いの日があります。それは十数年前の暑い日、友人たちが集まる飲み会でのことでした。

遅れてやってきたその人は、頭の上半分が黒髪で、下半分が銀髪でした。本当は総銀髪だったであろう髪が伸びに伸びて、ツートンカラーになっているという、パンチの効いた髪色。「仕事が忙しくって……」と、朦朧とした様子で、そろそろ飲み会も終わりという時間に現れて、律儀に全員に挨拶をしていました。「あ、麻実といいますー。よろしくー」と、挨拶をしてくれたこの人に、

私はピンときた

ということは全く無く、第一印象は

なんだ? このおかしな髪の人は?
うわー、絶対仲良くなることないわー。

こういう非常識な感じの人、ムリムリ。

というものでした。恋が生まれるどころか、初対面の印象はむしろ “近づきたくない人”。もちろん、それきり会うこともありません。一方の麻ちゃんも、この時の私など全く覚えていませんでした。

 

瞬間風速、人生MAX!

麻ちゃんと再び顔を合わせたのは、それから半年後。また、友人の集まる飲み会でのことでした。この飲み会は、主催者がバイセクシャルの女性だったので、セクシャリティやジェンダーに疑問を持つ女性たちが多く集まっていました。

私はこの頃、離婚をすることになり、完全に迷走していました(第17回のお話の終わりあたりです)。よく「セクシャリティに悩んで、離婚したのですよね?」と言われるのですが、実はそういうことではありません。夫に心変わりをされて、離婚してほしいと言われたという “なんともはや” な理由です。ただ、まさか本当に離婚をするとは思っていなかったので、「なんで人生設計が白紙に戻るわけ!?」と、事態を受け入れられず鬱々としていました。しかし同時に、結婚生活が壊れたことで、セクシャリティにうっすらとした疑問を持っていた私の、ものすごく遅れた自分探しが始まった頃でもありました。

飲み会のお店の入り口でばったり出会った麻ちゃんは、綺麗に髪を束ねて、アロハシャツに細身のデニム。くっきりした気の強そうな顔立ちに、派手なシャツがよく似合っていました。まるで少女漫画に出てくる不良少年のようで(麻ちゃんは当時アラサー女子。この時点で色々間違ってます)、心を鷲掴みにされました。

理想が服を着て歩いてるー!

そして、向こうも割と “悪くない” 印象のよう。人生初めての、(一応)女性からの好意的な目線に、胸がトキメキました。

あぁ、私の失われた青春がここから始まるのね!

この時私は、麻ちゃんがあの “くたびれツートンカラー” と同じ人物だと気づいていませんでした。麻ちゃんは「黙っていれば、見た目はいいのに……」と言われる、ちょっと残念なタイプです。普段、“麻ちゃんのモテっぷりに気を揉む” ということは無いのですが、この日の麻ちゃんはスゴかった。人生の最大瞬間風速ともいえる、モテぶりだったのです!

「女性が好きだ!」と公言していた麻ちゃんの隣には、飲み会の最中、可愛い女子大生や、キレイなOLさんがひっきりなし。そして麻ちゃんは、まるでひとりひとり面接でもするように、彼女たちと話し込んでいます。一瞬 “いいな” と思ってもらった気がしたけれど、「あ、こりゃ相手にされないわ」と、こちらは早くも諦めムード。だって30過ぎの子持ち女(しかも迷走中)が、前途ある女子大生に敵うわけがない。分が悪いにもほどがあります。

飲み会は盛況のうちに終わり、気がついた時には、麻ちゃんは女子大生と帰っていました。私は「やっぱり、こんなもんよね~」と、ほろ酔いで友人たちと二次会へと向かっていました。その時、後ろから名前を呼ぶ声が! 振り向くと、ベロンベロンに酔っ払った麻ちゃんが、こっちに向かって走ってきます。私の頭には、小田和正の「ラブ・ストーリーは突然に」のイントロが鳴り響きました!

ああ、青春が走ってくる!!

駆け寄ってきた麻ちゃんは、超ご機嫌でした。その楽しそうな様子は、私の “あるマインド” を強烈にくすぐりました。私は “さっきまではしゃいでいたのに、突然バタッと眠る子ども” のようなタイプに弱いのです。そう、つまりはダメ男好き!「離婚したんだから学べよ!」と、自分でも思うのですが、目の前に現れた根無し草のような酔っ払いに、私は心を奪われてしまいました。麻ちゃんが女だからって、ついガードを下げてしまったのです。今なら分かる、「ダメ男好きに、男も女も関係ない!」ということを……。

ベロンベロンの麻ちゃんは、二次会でもしこたま飲んで、恐ろしく汚い字で「あ、これ私の電話番号。電話してね!」と言って去りました。駅のホームで、ガラケーから「今日は楽しかったね」と、ショートメールを送りました。すると、いきなり麻ちゃんから電話が掛かってきて「あ、私のケータイ、ショートメール受け取れないんだ。じゃあね!」 ブツッ、ツーツーツー。一方的に切られた電話を見つめ、呆然とする私。「まるで竜巻のよう……」。この時点で、すでにブンブン振り回される予感だけはヒシヒシ。

この夜のことを、私はまるで昨日のことのように思い出せます。というか、それから十数年間ずっと、私は麻ちゃんにそうやって振り回されてきたのです。そして多分、麻ちゃんは振り回している自覚がありません……。

と、ここまで書いて、恥ずかしさに窓から飛び降りたくなってきました。ババアとババアの失われた恋物語を語るなんて、酔っ払ってもできませんよ! それを “ワールドワイドウェブとやらで、世界に発信!” とか、正気の沙汰じゃありません。

しかも現在、私は麻ちゃんとケンカ中。もはや「幻覚でも見たか?」という冷めきった中年夫婦ぶりで、「あぁ、同性カップルとかいっても、こんなにフツーに中年夫婦みたいになるのねえ。夫婦でもないのに……」と、自分にツッコミを入れてしまいます。

この原稿、子どもに読まれたら飛び降り確定。絶対に読ませられません。「何書いてるの~?」と寄ってくる子どもから、PCの画面をあたふたと隠す自分は、まるでエロ動画を隠す中学生のようです。

<まだ、つづく>

画像: 瞬間風速、人生MAX!

Composition:Yoshiyuki Shimazu

 

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