画像: #12 長嶋有さん

 

今月の人。

画像: 今月の人。

(作家)
長嶋有さん

1972年生まれ。会社勤務を経て、2001年『サイドカーに犬』で第92回文學界新人賞を受賞し、デビュー。続いて発表した2002年『猛スピードで母は』で第126回芥川賞を受賞する。2007年『夕子ちゃんの近道』で第1回大江健三郎賞を受賞。2016年『三の隣は五号室』で第52回谷崎潤一郎賞を受賞。
その他の著書に『ジャージの二人』、『いろんな気持ちが本当の気持ち』、『ぼくは落ち着きがない』、『佐渡の三人』、『電化文学列伝』、『愛のようだ』、『フキンシンちゃん』、『観なかった映画』、『もう生まれたくない』など多数。
公式サイト http://yu-and-bk.com/

 

カラフルでポップな絵と
「ブーブーブー」の言葉の
繰り返しで楽しく幸せな気分に

『ぶぅさんのブー』

画像: 『ぶぅさんのブー』

作・100%ORANGE(及川賢治・竹内繭子)¥800/福音館書店

子ブタのぶぅさんは、おはようのあいさつも「ブー」。おいしいときも「ブー」。楽しいとき、こまったとき、痛いときも「ブー」。いろんな思いがこもった「ブー」の言葉が楽しめます。幼い子の目をとらえる鮮やかな色彩に、斬新な構図とデザイン、そしてシンプルな言葉とのバランスが絶妙。現在、絵本やイラストで大活躍の作家、100%ORANGEさんが初めて手がけた赤ちゃん向けの絵本です。

「もともと親交のある100%ORANGEさんが、別件のついでに『そういえば、長嶋さんち、お子さん生まれたもんな』っていう感じで、ひょいっと送ってくれたんですよ。読んでみて、さすが100%ORANGEさんだなと。いわゆる緻密な絵とは違って、とてもラフな絵なんだけど、めちゃくちゃうまい。ヌケのある感じで、すごく省略されているのに、ちゃんと分かるんです。今、うちの娘にはこれ一冊だけを読み聞かせしていて(笑)」

 

リフレインの心地良いリズムを一気にはずす!
この意外性こそが絵本の醍醐味

「あるルールを繰り返していくことで、リズムよくページをめくらせる。めくっていることによってグルーヴ感みたいなものが発生するというのが、まず絵本のおもしろさですよね。なおかつ、優れた絵本っていうのは、ルールやテンポを心地よく作ってから、その世界の因果をちょっとはずすんですよ」

作家デビューから18年、これまでも絵本について数えきれないくらい取材を受けてきた長嶋有さん。今回のインタビューでは、はじめに、もうすぐ1歳になる娘さんに読んでいるという『ぶぅさんのブー』を紹介してくれた。作者は長嶋さんのエッセイ集『安全な妄想』で、装画を担当した100%ORANGEさんだ。

「話の筋としては、主人公のぶぅさんが何をしても『ブー』って言っているだけなんですよ。朝起きて『ブー』、積み木で遊んで『ブー』、積み木がくずれてイタタの『ブー』、そこへお父さんがバナナをくれて、大好きの『ブー』というテンポできて、さてどう転調するのかと思ったら……次はいきなり見開き一面、ぶぅさんの顔だけになって『ブー!』とひとこと。こんなはずし方があるんだと(笑)。

画像: リフレインの心地良いリズムを一気にはずす! この意外性こそが絵本の醍醐味

最後はお父さんとお母さんと一緒に手をつないだぶぅさんが『ブーブーブー』と言って終わる。勢いでもっていかれる、こんな一点突破のやり方は初めて見た(笑)。最後の、お父さんとお母さんの手にぶら下がって、ぶぅさんが運ばれている感じ、家からピョーンと外に飛び出て行った感じがすごく伝わってくる絵も、本当にうまいなぁと改めて思いました」

 

絵本を一番読んでいた70年代は
作家たちが実験を繰り広げた豊かな時代

長嶋さんが幼少期を過ごした70年代といえば、大阪万博の熱狂の後、日本中に「何か新しいこと、やりたいことをやろう」という自由な空気が満ちていた熱い時代。

「絵の世界の冒険というのかな。こんな表現もできるぞ、こんな画材を使ったらどうだ、みたいな実験的なことが絵本でもワーッと試されて。1960年代から70年代って、絵本作家たちも、かこさとし、寺村輝夫、長新太、中川李枝子……とオールスターがすごい作品をガンガン出していた絵本の全盛期だったんですよ。後から思うに、絵本の一番豊かなところを受け取れた時代だったのかもしれない」

そんな日本の絵本シーンに多大な影響を与えたのが、1979年の2度目のテレビアニメ化によって大ヒットした『ドラえもん』だったのではないか――と長嶋さんは考える。

「これは他のところでも語ったことなんだけども……それまでの絵本には、子どもの願いを叶えるとか、何か不思議なことを見せるといった役割が一冊ごとにあったんだけど、『ドラえもん』では、ドラえもん1人がすべての願いを一気に叶えてしまう。親しみやすくて、人間ではない友達がいつもそばにいてくれる、という願望も叶えちゃう。それこそ、ときに因果を説明したり、道徳を説いたり、絵本に求められている寓話的な要素まで、ぜんぶ入っているんですよね。

だから『ドラえもん』から先の絵本というのは、子どもの人気ナンバー1のジャンルではなくなってしまった。でもね、それはそれとして、個別のロングセラーになる絵本の強さが目減りしたわけでもないっていうのが、おもしろいところですね」

 

子どもに絵本を与えるときは
親の好みでもいいし、あてずっぽうでもいい

現在、長嶋さんの自宅には娘さん用に『ぶぅさんのブー』や、奥様が買ってきた、かがくいひろしさんの『だるまさんが』など、4~5冊ほどの絵本がある。

「まだ0歳児だから、慈しみ深く読み聞かせるというより、娘がぐずっているとき、離乳食作るのにちょっと時間かかるから、あてがっておこう! みたいな感じですね(笑)。絵本のほうが、テレビやスマホより健全だ、みたいなこともあんまり思わない。でも、絵本はひとつのおもしろいメディアであることは間違いないし、自分の栄養にはなったから」

長嶋さんは物心ついた頃から、たくさんの絵本にかこまれた環境で育ってきた。絵本が好きなお母さんが買い集めていたものに加え、小学校の先生だった親戚のおじさんが、学校の図書室に入る絵本を段ボール2箱分ほど、ドンと送ってくれたこともあった。

「母親は自分自身のために買っているような部分もあったので、本棚には母親好みの妙にセンスのいい絵本も並んでいて。それはそれで、僕もすごくハマる本は多かった。一方、おじさんが大量に送ってくれた絵本は、学校が選ぶものだから、道徳的な話や名作や定番もたくさん入っていて。でも、道徳的な本だから、つまんないってこともないんですよ。

絵本は、あらすじで感動させるというのとは別の何か、読み手の持つリズムやテンポとも関わってくるから、ハマる、ハマらないという個人差がすごく大きい。だからこそ、絵本は出会う機会ができるだけ多いほうがいいと思う。親の好みを見せてもいいし、無関係でもいい。どちらにしても、子どもを中心とした世界が勝手に出来上がっていくものだからね。

ただ、それにはある程度の量が必要だと思う。あらゆる絵本を買うことはできないけど、図書館に連れて行くこともできるし。ロングセラーの名作だけでも、読み切れないくらいあるから。とにかく、いろんな絵本を片っ端から読む! みたいな、そういう与え方がいいんじゃないかな」

 

[ 長嶋さん、これもオススメ ]

ナンセンス絵本の天才、長新太
遺作が0歳児向けの絵本とは最高にかっこいい

『ころころ にゃーん』

画像1: 『ころころ にゃーん』

作・長新太 現在品切れ中/福音館書店

小さな丸いものがころころ転がってきて、寝ているお母さん猫の背中に乗っかりました。「にゃーん」。子猫でした。1匹、2匹、3匹、4匹……次々やってくる子猫たち。お母さんの背中は気持ちがよくて、みんな「にゃーん にゃーん」と鳴きます。そこへ大きな丸いものがころころと転がってきて……。シンプルでどこか可笑しく、それでいて温かみのある世界が広がる長新太さんの遺作。

画像2: 『ころころ にゃーん』

「これはめずらしく30歳過ぎてから知った絵本だけど、『なんていい絵本なんだ! 遺作がこれとは……!』と感動して。蛍光ピンクのペン1本だけで絵を描くって、かなりアヴァンギャルドな挑戦ですよ。ひと頃、友達の家で子どもが生まれたら、必ずこの絵本を買ってあげていたんです。そしたらさ、なんと自分に子どもが生まれたときに品切れ中なんですよ。もう口惜しくて。今回この絵本を挙げた理由は、この記事を読んだ友達に『返してくれ』って、やんわりと伝えたかったから(笑)。そろそろその家の子供も大きくなってるだろうしね」

 

科学の原理を分かりやすく説き明かす
かこさとし かがくの本シリーズの復刊を求む!

『ちえのあつまり くふうのちから』

画像: 科学の原理を分かりやすく説き明かす かこさとし かがくの本シリーズの復刊を求む!

著・かこさとし 画・滝平二郎 現在品切れ中/童心社

道具を使うことを知ってから、人類の進歩は始まりました。人類が初めて使った道具からロケットまで――人間の工夫と智恵の集積、科学技術の発達の歩みをおもしろく説き明かします。幼い子どもに分かりやすい言葉で、科学の原理を教えてくれる“かこさとし かがくの本”シリーズの一冊。第17回サンケイ児童出版文化賞受賞。

「かこさとし追悼ということで、僕にとって思い出のかこさとしの本といえば、なんといってもこれですね。科学をテーマにした本だけど、ただ知識を伝達するだけじゃない。小さい子にも分かるように、絵本として成立するように、文章がすごく用心深く書かれているんです。『モチモチの木』で知られる切り絵作家、滝平二郎さんが描いた絵も迫力がありましたね。同じシリーズで、もう1冊『よわいかみ つよいかたち』もおすすめです。“かこさとし かがくの本”シリーズ、ぜひ復刊してほしい」

 

こんなことできたらいいな
子どもの奇想天外な夢を叶えてくれる物語

『ホットケーキ1ごう』

画像: こんなことできたらいいな 子どもの奇想天外な夢を叶えてくれる物語

作・寺村輝夫 絵・和歌山静子/私物

オムくんのママが、オムくんとトムくんに作ってくれたおやつのホットケーキ。でも、1枚だけ、ちっともふくらまなかった、できそこないのホットケーキは、犬のピーター用のおやつにされてしまいます。さみしくなったホットケーキは、自分で転がって外に出て行きますが……。『おしゃべりなたまごやき』などの“王さまシリーズ”を手がけた寺村輝夫&和歌山静子のコンビが贈る幼年童話の傑作。ちなみに主人公のオムくんとトムくんは、寺村輝夫さんの長男、次男がモデルだとか。

「これは1970年に出た本なんだけど、アニメ『ドラえもん』がヒットする前の時代の子どもたちの“充足願望”みたいなところがあるんですよ。昔話に出てくるような親孝行な子どもじゃなくて、オムくんとトムくんという、いい加減なところのある中流家庭の主人公を、子どもの等身大の代弁者として立てている物語が、すごく風通しがよくて、モダンに見えた。ホットケーキが宇宙ロケットになって月のそばまで行く展開には、アポロ11号が人類初の月面着陸をしたという当時の世相が感じられますね」

 

Illustration:Yuka Hiiragi Text:Keiko Ishizuka Composition:Shiho Kodama

 

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