画像: #14 史上最低にして最悪!カミングして、アウトォ!

親バレへのカウントダウン

先日、私の実家で集まりがあり、麻ちゃんや娘と一緒に帰省しました。私には弟が2人と妹が1人いて、その弟、妹に次々と子どもが生まれたのでちびっ子が多く、それはそれは賑やかでした。ちびっ子たちに一番人気があるのは娘で、今回も血の繋がらない従兄弟たちに取り囲まれ、引っ張りだこ。一方の麻ちゃんは、立場的にお嫁さんなのかと思いきや、妹の旦那さんと同じ扱いが定着していて、これまた面白い。「性別って何なんだろうな?」という気がします。

今ではこんな風に、父や母、弟や妹、その連れ合いも、私たちを家族として受け入れてくれますが、ここまでには長い長い道のりがありました。麻ちゃんが私の実家の敷居をまたげるようになったのは、それほど前のことではありません。当初、両親は麻ちゃんと同じ空間にいることさえ、避ける有り様でした。

私の家族は、厳格な父と、家事と育児を一手に引き受ける専業主婦の母、それに小さな弟と妹。私はひとり年の離れた長女でした。父は仕事一筋のカタブツで、ほとんど家におらず、子どもの頃は “父親というものは、普段は家にいなくて時折帰ってくるものだ” と思い込んでいました。高校生の時、泊まりに行った友達の家で、お父さんも含めた全員で夕飯を囲む一家団欒を見て、とてもびっくりしたことを思い出します。記憶では、夕飯の時間に父がいたことなど数えるくらいしかなかったし、子どもの学校行事に父が来るなんてことも、一度もありませんでした。イマドキのお父さんは立派ですね!

実を言うと、“こういう家庭環境が私のセクシャリティに関わっているのでは?” と考えていた頃もありました。しかし麻ちゃんの家では、お父さんが毎日夕飯の席にいて、とても仲良しだったと言います。“父親不在=レズビアンになる” ということではなく、“たまたまそういう人だった私の父が、たまたま留守がちだった” というのが正解だと、今は思っています。

父が不在だった代わりに、母と私は近しい距離にありました。大人になってからも、それは変わりませんでした。特に私が離婚してからは、心配して頻繁に家に来るようになっていましたから、麻ちゃんと出会って、いよいよ一緒に暮らそうという話が出た時、最初に思ったことは「ヤバい! 確実に親にバレる!」でした。そうなんです、私はまだ両親に自分のセクシャリティをカミングアウトしていませんでした。

 

追いつめられて……

当時、LGBTの友人や知人から「親にだけは言えない」という声を度々聞いていました。実際、私も大人になって親と離れて暮らしているわけで、言わないという選択肢もあるはずでした。しかし家の合い鍵を持っていて、遠慮なく勝手に入ってくる母。それに加え、母になんでも喋ってしまう子どももいます。うちに限っては “親に隠し通す” という選択肢はなさそうでした。

麻ちゃんから、一緒に暮らそうと言ってもらって嬉しかったはずなのに、その日から私の前には “親へのカミングアウト” という巨大な壁が、ドーンと立ちはだかることになりました。しかも親にカミングアウトしている友人がいなかったので、どうやって伝えたらいいのか、聞くこともできません。

LGBTであるということは、誰とどう生きるか? ということです。今では少しずつ浸透してきた考え方ですが、14年前のそれは、うっかりすると親に異常性欲の話を持ちかけた、と誤解されかねませんでした。WHO(世界保健機関)が、同性愛を精神疾患の項目から外したのが1993年のこと。そんな誤った認識が、つい最近までまかり通っていたのです。おまけに私の親は、潔癖を絵に描いたような人たちなので、そもそも性にまつわる話がタブー。なんなら、“おっぱい” という言葉だって口にしてはいけない……。そんな空気でした。

説明できる気がしないまま日々は過ぎ、麻ちゃんからは「あなたの生活力の無さを心配して、わざわざ同居を申し出たのに、なぜはぐらかすのだ」という苛立ちを、言葉の端々から感じていました。追い詰められた私は、ある日、電話口で母と些細なことで言い合いになり、事もあろうに、怒りにまかせて「私はレズビアンなの!」と怒鳴っていたのでした。

どうカミングアウトしようか、散々悩んでいたはずなのに、勢いで出てしまった言葉に自分が一番動転していました。電話の向こうでは、母が絶句しているのが伝わってきます。長く続く沈黙。その沈黙は、「もしかしたら受け入れてくれるかもしれない」という私のかすかな希望を打ち砕きました。すると私の中で猛烈な怒りが爆発して、次の瞬間、こう怒鳴っていたのでした。「私がこうなったのはママのせいだし、育て方が悪かったのよ!」

親へのカミングアウトの指南書などを読むと、最もやってはいけないことのトップに、

●親を責めること

●育て方のせいで同性愛者になったと言うこと

と書いてあります。なぜならそれは事実ではないし(LGBTは育て方の問題ではありません)、ただでさえ驚く告白に自分を責めがちな親を、追い詰めるやり方だからです。それから指南書には、

●自分が未整理な状態で感情的な言葉をぶつけること

も、相手をショックに陥れるのでやめるべきだと書かれています。

私のカミングアウトは稀に見る大失敗、全部盛り! 自分が大いにやらかしてから、今に至るまで、親への色んなカミングアウト・ストーリーを聞きましたが、自分ほど酷いカミングアウトをした人を知りません。ちょっとのことではへこたれない母が、電話口で泣き崩れていました。今となっては自分の所業を深く反省しています。

と、こう書くと母が実に可哀想だと思われるかと思いますが、母がやられっぱなしだったわけではありません。翌日、電話をかけてきて、恨みがましくこう言ったのでした。

「ママね、お墓の前で泣いたのよ」

墓とご先祖を出して刺し違えてくるとは、母もさすがの手練れ。一気にKOされました。さらにカミングアウトのショックを受けた勢いのまま、母は昨日のうちに弟と妹に電話をして「お姉ちゃん、レズビアンなんですって!」と、ぶちまけていたのでした。

二人の反応は「フーン」くらいだったようですが、妹はそれ以来、常に私の味方になり続けてくれています。麻ちゃんの妹さんもそうだったけれど、カミングアウトのキーパーソンは妹なんじゃないかと私は思います(多分、たまたまだと思いますけど……)。

 

画像: 追いつめられて……

Composition:Yoshiyuki Shimazu

 

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