画像: 子育て、私の場合【後編】みうらじゅんさん

 一人一人、好きな食べ物や個性が異なるように、妊娠や出産の仕方、子育てだってみんなと同じじゃなくてもいい。親子の数だけ子育ての仕方もあっていいはず。子どもと向き合う時間は限られているからこそ、子どもの成長を感じて笑い、ときに悩み、ときに泣き。無我夢中で子を育ててきた。

 害虫駆除、浴槽に浮かぶうんちの処理、添えもんとしてのプライドが、みうらじゅんの子育てを支えている。幼い頃から自分の好きなものを見定め、逆に興味の持てないものは完全スルーするような、振り切った人生を送ってきたみうら。その経験は子育てにどんな影響を与えているのか。とりあえず、企画書は読んでくれていたみたいで、よかった……。

 

▼前編はこちら

 

家事をやったら2回に1回ほめてください

 俺ひとりっ子で、自分で何もしてこなかったんですよ。みかんに薄皮があることすら知らなかったんですよ。うちのお母さん、剥いて出してくれてたから。外側の皮剥いたら、みかんの缶詰状態で存在すると思ってました。そんななんで、歴代付き合った女の人にはいろいろ怒られてきたんですよ。親の教育が悪いとか。でも親まで出されるとね、さすがにこっちだって腹が立つ。俺だけだったら我慢するが、それ以上遡らないでくれ……と。

 でもまあそういう人生だったんで。洗濯もしたことなかった。親父が仕事だけやってた人で、お母さんは専業主婦。仕事を持った女の人って見たことないから、家庭が意外と忙しいことを知らなかったんです。男の半分以上は気がついてない、家事ってめちゃめちゃやること多いってこと。

 男ってね、少々汚れててもいいんですよ。少々汚れてても気にならないから、日々女の人が掃除してくれて綺麗を保ってることに気がついてない。だからね、水回りはもう俺がやろうと決めました。で、やってるんですけど、やるとなると男って洗剤はこれじゃないと、みたいなところがあって、凝らないと面白くない。だからちょっと高いやつ買ってみたりして。それがまた奥さんの評判悪かったりするんですけど。まぁ凝らないとハマらないんですよ。

 料理だって調味料とか妙に凝るやついるでしょ。それで高くついたりしてるでしょ。あれ、意味ないですよね。食べに行ったほうが安いですよね。でもそれぐらいやんないとハマらないんですよね。

 だから女の人に、これだけは言いたいんだけど、男が家のことをやりやすいような調教の仕方を覚えてほしいですね。2回に1回ほめるとか。“もうそんなこといちいちほめない” とか “分かるでしょ。言わなくても” って言うけど、実は分かってないから。公園で野球してホームランを打ったときには、おかんに報告して “やったね“ って言ってもらって完結なんですよ、男って。ほめられて伸びていくところがあるんで。なんかほめたら損だと思ってる奥さんがいるみたいだけど、ほめときゃいいじゃんって俺思うんだ。どっちもほめ合ってたら上手くいくんですよ。

 

勉強なんてしなくても実は大丈夫

画像: 勉強なんてしなくても実は大丈夫

 子どもだってほめときゃ上手く育つんですよ。俺、叱ったことなんて一回もないです。テストの成績が悪かったとしても、そもそも俺が赤点ばっかりだったので、よくテストの答案をドブに捨てて帰ってたし。いまだに俺、九九ができないし。7の段がとくにできない。子どもにたまにクイズで出されるけど、全然答えられない。小学校のとき九九ができないから廊下に立たされて、立たされたことで嫌になっちゃって、覚える気がなくなってもうできない。でもできなくてもなんとかなるじゃん。ケータイに計算機ついてるもん。だから絶対いけるんですよ。こんな常識がないやつだって生きられるわけだから。ほんとは大丈夫なんですよ。

 勉強なんてしなくても実は大丈夫。中学までしか行かなくてもほんとは大丈夫。でも親の見栄とかがあって、いいところに入ってもらいたいとか、いい子に育ってほしいとか。「これは親の見栄ですよ」って言って育てるんだったらそれもありだと思いますし、「お母さんの見栄だからしょうがねぇな」って子どもも納得すると思うけど。でも大概は「あなたのためだから」とか言うじゃないですか。でも大丈夫ですよ。中途半端が一番ダメだよね。振り切ったほうがいいし、そうやって振り切れる気持ちを育てればいいんだよね、親は。

 

大事なのはそれが本当に欲しいのかどうか

 俺ね、だから物はバンバン買ってるんですよ、子どもに。中野のブロードウェイ行って。どんなに高くても買うんですよ。3000円とかするカードとか。買うことは買うけど、大事なのはそれが本当に欲しいのかどうかなんですよ。なんとなくは嫌なんですよ。自分はすごく欲しかったから、すごく欲しいものって展覧会(生誕60年を記念し、川崎市市民ミュージアムにて開催された “MJ’s FES みうらじゅんフェス マイブームの全貌展 SINCE1958”)で見てもらった通り、残してるんですよ。みんな異常な収集癖とか言うけど、本当に大事なものだから残してて当然なわけで。あれを「すごい」っていう人は、本当に大事なものを買ってないんだなって思うよ。お母さんとかお父さんはすぐ捨てる生き物だから、どうしたら捨てられないかばっかり考えて生きてきたんで。だからそれぐらいの覚悟で物は買わないと面白くない。それはずっと子供に言ってる。そう言ってると、友だちも持ってるから、なんとなく欲しいみたいなものだと “別に買わなくていいか” ってなるんですよ、不思議とね。自分で判断できるようになる。 

画像: 大事なのはそれが本当に欲しいのかどうか

 でも、ほんとに好きなものが見つからないっていう人生もあるから。夫婦もそうだけど、ほんとに愛してるかどうか分かんなくて結婚してる人がほとんどじゃないですか。ほんとに好きって最期まで言い続けた人なんか、たぶん地球上でも一握りぐらいの人しかいないんじゃない? なんとなく結婚したりして、なんとなくの愛じゃないですか。なんとなく好きっていうのが普通としたら、すごく好きとかすごく愛してる人やものを見つけられる人ってそんなにいないと思うんです。

 だから勉強でも習い事でも何かを買うことでも、親がコントロールしようとするのは、それは子どもの芽を摘むことになるから、してはいけないんじゃないかなと思うんですよ。ほんとはすごい子かもしれない。伸ばすことが重要であって、それを邪魔するようなことは避けるべきだよね。うちのおかんが偉かったなと思うのは、習い事をやめても何も言わなかったし。そもそもずっと家でスクラップやってて、そっちが忙しくてしょうがないから、勉強なんてやってる場合じゃない。前編で話した食事のこととかもそうだけど、最近の親はちょっと子どもを気にしすぎかもしれないですね。

 ほっときゃいいのに、っていうところがたくさんあるんじゃないかなと思うけどね。いまはネットがあるからね、平均が分かりすぎてこわいんだろうね。
 

 

近親相姦を防ぐための反抗期

 こういう話をすると「お母さますごいですね」みたいになるんだけど、別にそんなすごい人ではなくて、ただそんな怒らなかっただけでね。ものすごく普通の家だったんで。でもその “普通の家” に対してのコンプレックスがのちに出てくるわけですよ。ロックとか知るとさ、普通の家ってダメなんですよ。アンチが1個もないんですよ。つまんないんですよ。父親がアル中でとかさ、欲しいよね。だったら反抗してもしょうがねぇなってことになるもんね。

 これ教科書とかにはっきり載せたほうがいいんじゃないかなと思うんですけど、たぶん近親相姦が起こらないために反抗期ってあるんでしょ。医学的な見地とかで言ってるわけじゃないけど。きっとそうだと思うんだけど違うかなあ。大好きな父親や母親から一回離れるためにDNAに組み込まれてるんだって。

 反抗期っていう、反抗されてるっていう意識があるから、親子双方が損したみたいな「ちぇっ」みたいなところがあるけどさ。それが近親相姦を防ぐための年月と考えたら「ああそうかもね」って納得できるところあるんじゃない? 大きくなったらパパと結婚する~とか言ってたのが、急に一緒に洗濯するなとか言い出すこともね。だからauのコマーシャルで、鬼の子どもが親に反発すると “お前も反抗期か!” って親鬼が喜ぶシーンがあるじゃん。そう考えるともっと気楽になるんじゃないかなって思うんですけどね。うちもだいぶ反抗期なんで。出てますよ。でもそうやって考えると「こいつ俺のことそんなに好きだったんだな」って思える。そうやってやり過ごせばいいから。それを通りすぎたらまた仲良くやれるんだもん。でもそのときは「もう一生反抗期なのか」って思い込むんだよね。

 

子育てなんて楽しいはずがない

画像: 子育てなんて楽しいはずがない

 俺さ、そんな長い期間ではないけど、ひとりで子育てした時期があって。そのときはもう「これが一生続くのか」状態だった。ちょっとノイローゼみたいになって。たまに酒飲みに行くと大暴れしたりして(笑)。他人の悩みとかが小さく感じてすげえ腹立ってくるの。"そんなことでグズグズ言うな!" とかすげぇ怒ってんの。

 あれなんだろうと思ったけど、たぶん育児ノイローゼだよね。子どもとずっと一緒にいたら、なりますよ。むしろそうなることが前提でいたほうがラクだと思った。保育園だって熱が出たら預かってくれないしさ。こういうインタビュー受けてたら急に熱が出て迎えに行ったりしたこともありますよ。しょうがないもんね。でも「しょうがないことがある」っていうことがまだ分からないんだよね、子育てする前って。しょうがないことがあるんだって思ってしまえばラクになる。“これ、どうにかなんないの?” とか言ってるうちが一番イライラする。本当に誰でもなるよ、あれ、育児ノイローゼ。ならない人のほうがおかしいよ。

 そもそも「子育てが楽しい」なんてないでしょ。子育て別に楽しくないよ。あんなん楽しいわけないじゃん。メシを食いに行っても泣かれてメシ食えないしさ。結局メシ食えなくて帰ったことも何回もあったし。楽しいわけないよ。あれはもう修行だよ。修行中だからしょうがない。

 うちも子供が小学校に上がって、ようやく落ち着いた。ひとりで歯をみがけるようになったからね。いま一員だけど、一員になるまでが大変。だからこそ、たまにある「安定」がすごい嬉しかったりする。でもたまにある安定って、いつもが不安定だからこそなんだよね。ほとんどが不安定で、たまに止まり木みたいな安定があるんだよ。

 雨が降ってる日にさ、ベビーカーをずっとこうやって押してて。“俺は『子連れ狼』か!” と思った。そんなときに限って友だちから電話かかってきて「飲みに行かない?」とか。「なに言ってんだ」と。行けるわけねぇじゃん。ああこれは俺の過去の行いが悪いせいだなと悔やんだりもしましたよ。

 

子育ては修行である

 でもまあ修行だとしても、楽しんだほうがいいかもしれない。逆に言うと「こんな修行してる俺ってどう?」みたいなところもあったりする。この間の展覧会場に並べてあった「アウトドア般若心経(飲食店やスナックなど街の看板を写真に撮り、般若心経を構成している278文字を完成させた “新しい写真経” )」って、あれ、ほとんどがベビーカーで探した写真なんですよ。

 何かやることはないかって考えてて、で、外の看板で般若心経を見つけようってなったのは、ベビーカー押してたときに思ったこと。「あれ、これどこまででも行けるな」と思って、気がついたら新宿からフジテレビのあるお台場まで行ってた(笑)。それでも初期の頃はあんまり見つけられなかった。でも、それ始めたら外に出たくてしょうがないんだ。だからちょうどいいもん見つけたって、ベビーカーを押しながらこうやって撮って。それでも別に「子育てが楽しい」ってわけじゃないしね。子育てはつらい修行。楽しくはないし、ノイローゼにならないほうがおかしい。それはもう、声を大にして言いたいですね。

 

PROFILE

画像: PROFILE

みうらじゅんさん Jun Miura
1958年、京都府生まれ。武蔵野美術大学在学中に漫画家デビュー。以降、漫画やイラストのみならず、エッセイスト、ミュージシャンなど、多岐にわたる分野で活躍を続けている。

’97年には造語 “マイブーム” で新語・流行語大賞、2005年日本映画批評家大賞功労賞を受賞。今年はみうらじゅん生誕60年を記念し、川崎市市民ミュージアムにて、“MJ’s FES みうらじゅんフェス マイブームの全貌展 SINCE1958”が開催された。

著書に『アイデン&ティティ』、『青春ノイローゼ』、『色即ぜねれいしょん』、『アウトドア般若心経』、『十五歳』、『マイ仏教』、『セックス・ドリンク・ロックンロール!』、『キャラ立ち民俗学』など多数。共著に『見仏記』シリーズ、『D.T.』などがある。

 

Photo:Chie Tatsumi Text:Chihiro Nishizawa Composition:Shiho Kodama

 

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