画像1: 子育て、私の場合【前編】みうらじゅんさん

 一人一人、好きな食べ物や個性が異なるように、妊娠や出産の仕方、子育てだってみんなと同じじゃなくてもいい。親子の数だけ子育ての仕方もあっていいはず。子どもと向き合う時間は限られているからこそ、子どもの成長を感じて笑い、ときに悩み、ときに泣き。無我夢中で子を育ててきた。

 そして毎回、子育てを経験したパパとママに話を聞く「子育て、私の場合」。
今回は “マイブーム” や “ゆるキャラ” など、世の中でまだ名前がついていない物体や現象にいちはやく目をつけ命名し、常に新しい楽しみ方を提案してきたタレント・みうらじゅんさんにインタビュー。サブカル界の帝王であり、 “お父さん“ のイメージが皆無なみうらさん流の子供との向き合い方、家庭での顔とは―—。

 

画像2: 子育て、私の場合【前編】みうらじゅんさん

 取材場所であるご本人の事務所につくと、玄関でスリッパを出された。昭和の子なら反射的に手にとって頭を叩きたくなるようなフォルムのスリッパ。そこには銀色の明朝体で「みうらじゅん事務所」と書かれていた――。

 たくさんの本と謎の置物とみうらじゅん本人が不思議な一体感を醸し出すこの場所で、今日うかがうのは「みうらじゅんと子育て」。それはプロ野球選手に「昨今の物価上昇についてどう思われますか?」と聞くようなものというか、何らかの違和感をおぼえずにはいられない。みうらじゅん自身、現役の父親でありながら、「子育て」について語ることをほとんどしてこなかったから。大丈夫なのか……企画書は見てくれたのか……。少しの不安と大きな期待の中、インタビューは始まった。

 

添えもんとしてのプライド

 料理もね、たまにするんですよ。昔『みうらじゅんのマイブームクッキング』っていう料理番組をやってて、俺がテキトーに話しながら料理を作って、ゲストに毒見させるやつ。そこで少しはできるようになったんで。とりあえず甘辛にしとけばいいんですよ。俺もそうなんだけど、うちの子どもも甘辛が好きなんです。DNAが入ってるから。甘辛DNA。

 ただ俺にはないんですよ、栄養バランスという概念が。だからラクなんですけど、お母さんは大変ですよね。めんつゆ使ったら手抜きって言われるの? うそでしょ? あれ入れないとおいしくならないよ。なんか全部 “自然のものが一番” みたいなことを言うけどさ、うちらはチクロ食べてた世代だから。チクロだもん。もう舌が真っ赤になるようなやつ。チクロ(合成甘味料。現在は使用禁止)とか人造肉とかね。石油で作ってあるんだよ、人造肉。そんなのを食べさせられてた世代だから、あんまり自然にこだわるほうが変な感じがするよね。それはそれで病気だよね、ちょっとね。

 お母さんは大変だと本当に思うよ。前はほとんど家に帰ってなかったのでわからなかったですけど、最近よく家にいるんで。僕思うんですけど、大事なのは家にいることですよ。

 お父さんに子どもが懐かないとかあるじゃないですか。あれ、いないからですよ。いたら懐きますよ、誰だって。犬だって懐くじゃないですか。やっぱり一緒にいる時間を長くしないと子どもも懐かないですよ。結局、小学校の卒業式とかでもひとこと言うのはお母さんについてなんだよね。お父さんにはひとこともないんだよね。なぜならお父さんって添えもんだから。

 添えもんは添えもんとして自覚しないと。“添えもんなんだな!” って威張って言えるぐらいじゃないとダメだと思うよ。それこそが添えもんのプライドですよ。裏でカネ回しますからね、当然。お母さんがおこづかいあげるでしょ? で、当然こっちもポイント稼がないとだから、「内緒だよ」とか言って得意げにカネを渡す。それが添えもんのやり方です。

 

今まで「子育て」を語らなかったワケ

画像: 今まで「子育て」を語らなかったワケ

 昔はよく「子育て本、出しましょう」って誘われたんだけど、でもそんなの出してたらダメじゃないですか、俺が。一応イメージあるからダメですよ。さすがに還暦になってイメージもないだろうって思われるかもしれないですけど、こっちはイメージ商売なんで(笑)。

 テレビタレントが子育ての話をしてるのもイメージじゃないですか。こっちもイメージなんですよ。だから俺が乳母車を押してるわけにはいかないんです。まあ、そういう現場をいろんな人に見られたりしましたけどね(笑)。でもそのときこっちは警察に通報されるギリギリでやってるから。誘拐かな? と思われたことも当然ありますよ。このままですから。タレントみたいに変装とかしないんで。

 子育ての話をテレビですごい言う人っているじゃないですか。だったらもうテレビ出るのやめて家に帰ればいいじゃんって。すごく出てるっていうことは帰ってないでしょ。おかしな話じゃないですか。でも、タレントの人はママタレントとか肩書きが欲しいからやってんだろうけど、俺はそんな肩書きいらないから。それでも、まともに子どもを育てて大きくなってるよ。みんな普通にしてますよ。親がサブカルだから子どももサブカルにはちっともなってない。ならないならない、絶対。好きなことは似てきたりはするかもしれないけど、変な子ではないよ、ちっとも。みんなが期待するような “変な子” ではない。

 でも当然俺に子育て本とか子育て話を頼む人って、そこ期待するでしょ。残念なことに意外とまともだから、悪いなぁと思ってあんまり言わなかったんですよ。それか、俺がまともだったり普通だったりするのがかえっておかしいって思われてるとしたら、そこ俺は許さんぞと思って。頑張って変なフリしてんのに。変なフリはイメージづくりでやってるんで。そこがっかりさせたくないじゃないですか。もうサービスで生きてますんで。裏切りたくないですよ。

 

地下鉄の駅でベビーカーの運搬をしていた

画像: 地下鉄の駅でベビーカーの運搬をしていた

 ほんと最近よく思うんですけど、結婚って上手くできてて、若い頃にするもんですよ、あれ。上手く考えてあるシステムなんだなって後から思いましたね。年取ってからするもんじゃない。体力が追いついていかない。

 俺いっときね、地下鉄のエレベーターのない駅、たまにそこの階段の一番上に立って、誰か来ないかなと思って待ってたことあるんですよ。で、ベビーカーのお母さんに『持ってあげます』って言って手伝ったことが何度かある。そういうことをやるのが好きなだけだったんだけど、すごい不審がられて、すごく拒絶されるんです(笑)。

 普段、あんまり感謝されることないから、感謝されたいと思ってやってんだけど、まさかキモがられるとは思ってなかった。地下鉄っていまだにエレベーターとかエスカレーターがないところ多いじゃないですか。あれ、キツいですよね。あと謎の段差。こっちも年を取ってからの子どもなんで、もう腰が痛いんですよ。

 ただ年取ってるからわかるっていうこともある。よく世間のお母さんがママ友との関係に悩むっていうけど、たとえばママ友の集まり、あれね、お父さんも行けばいいんですよ。なんでそうしないのかなって。 

 俺も1回行ったんですよ。みんなでご飯を食べる会があって。で、バーベキューかなんかで、ずっと焼きそばとフランクフルトを焼いてた。女の人だけでいるのと、そこに男がいるのとでは、話題が違ってくるんだよね。男がいると変に深いところに入らない。だからPTAもお父さんを何人か入れなきゃなんない制度にしたほうがうまくいくと思うよ。

 たださ、俺は割と昼間からぷらぷらしてるんで、そんなの目撃されてるわけですよ。もう校長より俺は年上だから、それだったらPTA会長になってくれって(笑)。面白いし、潤滑に行くって言われて、俺もきっとそうだと思うんだけど、でもそこに力を注げないし、昼間ぷらぷらしてるけど、ほかは仕事やってるから、一応(笑)。暇だと思われがちだけど、違うの。暇じゃないのよ(笑)。

 

校長先生より年上という事実

 でも行事に参加したりとかは、全然躊躇しないし、運動会も俺一人で見に行ったこともあったし、競技にも参加してるし。初めはほんとそういうのに出るのが嫌だったけど、誘われるじゃないですか。で、それ断るのも嫌なんですよ。だったら全部出てやろうと思って、全種目出た年がありまして。保育園の運動会だったんですけど、園長さんが “保険はおりませんよ" って真顔で。俺がもし怪我しても保険金出ないって言うんですよ。年いってることは知ってるんですよ。周りのお父さんはみんな20代、いってて32~33ね。だから……やっぱり結婚は若い頃にして、なおかつ別れないのがいいですよ。それが一番上手いこといくんだなと思った。校長先生より年上ってダメですよ。そりゃ会長ですよ、もう。

 東京は、そういう点ではいいところですよね。色んな人がいる。俺みたいなのもいれば、外国人もいるし。「子育てがしやすいから」って地方に引っ越す人もいるけど、ちょっと変わった人はやりにくいかもよって。変わり種にはキツいよね、やっぱ、浮きますからね。都会はそういう意味ではいいですよ、みんなまちまちだから。

 

男の生きる道は、ゴキブリ退治

 子どもは家族の一員だと思ってるんですよね。一員が二員になったり三員になったりして増えてるだけで、自分が親で、相手は子どもで……みたいな感じではないですね。おむつしてる間は子どもだと思ってました。お母さんが夜中に授乳するとき、俺も一応、なんかしなきゃとは思うんですよ、男も。だからこうやって半身だけ起こす。半身起こして授乳が終わったらまた寝る。それもほら、気持ちじゃないですか。何もできないけど、俺も寝てないよっていう。

 お母さんと子どもとは違う部屋でがーがー寝てるやつは嫌だなぁと思ってたから、頑張って一応形だけは付き合ってたけど、でも何の役にも立たないんだよね。男にも一応おっぱいついてるのに、乳頭までついてるのに、なぜおっぱいが出ないんだと思う。これさえ出れば役に立つんですよ。ひとりで外にも連れていけるんですよ。ここ、神様の失敗だよね。乳ぐらい出てもいいのになと思うけどなぁ。

 いやもう浴槽の中でうんこされたりね。いろんなことがありましたよ。そういうとき手でうんこをわしづかみするのは俺の役だと思ってね。“大丈夫。うんこは取ったから” って言ったけど、誰もそのあと入らなかった。でも、添えもんだからね。俺、若い頃から機械いじりができなくて、パソコンなんかいまも使えない。よく女の子の部屋でステレオを直してくれって言われて、いじったらさらに壊れたりして(笑)。怒られたもんですよ。あと、力がないから引っ越しの役にも立たない。

画像: 男の生きる道は、ゴキブリ退治

 そんな男が生きる道はね、ゴキブリです。ゴキブリを捕るしかない。それは若い頃からそう決めてたんだけど、女の人の機嫌を取る才能がない男は、ゴキブリ退治だって。俺だってゴキブリ捕るのが好きなわけじゃないけど、それしかできないから、それで “ありがとう” と言われるならと思って。初めはティッシュで捕ってたんだけど、ティッシュでは一歩遅い。だからほんとは素手がいいんですよ。で、素手で捕まえるとね、“やめて” って言われる。“気持ち悪いから” って。それどういうことだろうと思ったけど、それが添えもんの人生なんですよ。

 とりあえず添えもんはそうやって、奥さんの機嫌を取るのが仕事です。奥さんの機嫌が悪いと家の中が暗くなるから。世界もそうじゃないですか。女の人の機嫌が悪いから戦争が起こってるんですよ。そうなんですよ。もうわかってるんですよ、俺は。トランプさんのところの嫁だって何だか機嫌が悪そうな顔してるでしょ。機嫌が悪い奥さんといる人は機嫌悪いんですよ。奥さんが機嫌がいいは機嫌いいんですよ。(安倍)昭恵夫人もいま機嫌悪いでしょう。やっぱりお互い機嫌よくいたいですよね。

 

PROFILE

画像: PROFILE

みうらじゅんさん Jun Miura
1958年、京都府生まれ。武蔵野美術大学在学中に漫画家デビュー。以降、漫画やイラストのみならず、エッセイスト、ミュージシャンなど、多岐にわたる分野で活躍を続けている。

’97年には造語 “マイブーム” で新語・流行語大賞、2005年日本映画批評家大賞功労賞を受賞。今年はみうらじゅん生誕60年を記念し、川崎市市民ミュージアムにて、“MJ’s FES みうらじゅんフェス マイブームの全貌展 SINCE1958”が開催された。

著書に『アイデン&ティティ』、『青春ノイローゼ』、『色即ぜねれいしょん』、『アウトドア般若心経』、『十五歳』、『マイ仏教』、『セックス・ドリンク・ロックンロール!』、『キャラ立ち民俗学』など多数。共著に『見仏記』シリーズ、『D.T.』などがある。

 

Photo:Chie Tatsumi Text:Chihiro Nishizawa Composition:Shiho Kodama

 

ご感想や応援メッセージ

掲載作品に対するご感想や応援メッセージが、こちらの送信フォームよりお送りいただけます。

なお感想以外のご質問、ご意見、ご要望、苦情などは、このフォームからお送りいただいても返信、対応ができかねますので、あらかじめご了承ください。

メッセージ送信にあたり、当社の個人情報保護方針をご確認ください。
講談社プライバシーポリシー

人気記事

This article is a sponsored article by
''.