画像: #13 同性パートナーのご両親を、介護する?

理解してくれる人は必ずいる

前回、麻ちゃんのご両親とのお付き合いの始まりについて書きましたが、今回は “その後” のお話です。LGBTのカップルと、その両親(ひいては「イエ」というもの)とのお付き合いというのは、実にいろいろとあるものなんです。

パートナーの麻ちゃんが、ご両親に(思いがけず)カミングアウトできてから数年が過ぎ、その立て役者となってくれた、麻ちゃんの “よくできた” 妹さんが結婚することになりました。LGBTの場合、パートナーの家族の冠婚葬祭に呼ばれるか否かは、毎度ストレスがかかる事案です。いつも変わらず、私たちを “ただのかぞく” として扱ってくれる妹さんたっての希望で、私たち一家5人も結婚式に参列することになりました。

パートナーの親戚一同とお会いする初めての機会に、私はドキドキ。ご両親へのカミングアウトは(思いがけず)できたとはいえ、親戚の皆さんにはカミングアウトしないと聞いていたので、あくまでも “ルームシェアしている同居人” という体裁で参列することになりました。

結婚式というのは、“家族” について考えさせられる行事です。親族のみで写真撮影したり、披露宴のテーブルも親族席があったり。私と長男、次男は、親族のみの写真撮影にこそ参加しませんでしたが、披露宴のテーブルは麻ちゃんたちと一緒の親族席に座らせてもらいました。

披露宴は大いに盛り上がり、そろそろお開きという頃でした。麻ちゃんのおかあさんの一番上のお姉さま(=麻ちゃんの伯母さま)が、こちらに歩いてこられたかと思うと、まっすぐに私の目を見て「麻実をよろしくお願いします」とおっしゃり、深々と頭を下げられるではありませんか。こちらはあくまでも同居人の体裁ですから、「ハァ」とか「いえ、こちらこそお世話になってます」という、さえない返事をしたのですが、後日麻ちゃんのおかあさんにうかがうと、その伯母さまは私たちの関係を知っておられて、わざわざご挨拶に来てくださったのでした。

麻ちゃんがレズビアンだと分かった時、麻ちゃんのおかあさんも誰かに相談したかったようで、その伯母さまが話を聞いてくれたのだとか。あぁ、それが分かっていたら、もう少しマシな返事ができたのに! ともあれ、私たちのことを理解してくれる人が、麻ちゃんの親戚にもいるのだと知り、思いがけず嬉しく思いました。

 

それは朝の電話で始まった

そして3年ほど前のこと。麻ちゃんのご両親との関係に、変化をもたらす出来事がありました。ある朝、子どもたちを学校に送り出し、そろそろ仕事に行こうと準備をしていると電話が鳴りました。「こんな朝から誰だろう?」と思って受話器をとると、「麻実は仕事よね?」という麻ちゃんのおかあさんの切羽詰まった声。麻ちゃんのおとうさんが急に倒れ、意識を失ったというのです! それはそれは、ひどく動転した様子でした。

「麻ちゃんに連絡!」と思ったけれど、既に仕事に出かけて電話が繋がらない(この人はつい最近までガラケーで、連絡が非常に取りにくかったのです!)。麻ちゃんは当てにならないし、頼みの綱の妹さんは遠方暮らし。「ここは私が行くしかない!」と、初めての “嫁的タスク発動” です。麻ちゃんのおかあさんに救急車を呼ぶように伝え、会社に電話をかけ「パートナーの親が倒れたので休ませてください」と一報を入れたうえで、電車で1時間半の麻ちゃんの実家へ急いで向かいました。

麻ちゃんのおとうさんが救急車で運ばれた後の家には、真っ青になって立ち尽くす麻ちゃんのおかあさんがいました。荷物をまとめ、タクシーをつかまえ、一緒に病院へ。ショックで呆然とする麻ちゃんのおかあさんを前に、「身内といえるのかどうか分からない」などと言っている場合ではありません! 途中で連絡のついた長男と娘も学校を早退し、合流しました。

脳溢血か、それともアルツハイマーを発症したのか? と心配しましたが、意識は昼には戻り、しばらく辻褄の合わないことをつぶやいていたものの、、幸い大事に至ることはありませんでした。ただ念のため、数日は入院することになりました。夕方にはしっかりと意識も回復したので、そろそろ失礼しようとしたら、麻ちゃんのおとうさんからうわ言のように「僕のパソコンを見て、スケジュールを確認してきてほしい」と言われたのです。突然の入院だったので、明日からの仕事の予定を確認し、方々にキャンセルや予定変更の連絡をしたいとのことでした。

パソコンを開いて予定をチェックするくらいなら、と安請け合いした私は、30分後、麻ちゃんのおとうさんの部屋で愕然とすることになりました。趣味であるパソコンというのは、ネットサーフィンのような気軽なものではなく、自作パソコンの組み立てだったのです! 部屋いっぱいに積み上げられたパソコン(と呼ぶには怪しげな謎の木箱とスイッチのオンパレード)は、電源がどこにあるのかも分からないシロモノ。麻ちゃんのおかあさんは「何も分からない……」といった顔で、ドアの向こうから恐る恐るこちらの様子をうかがっています。1時間、必死になって電源ボタンを探したけれど見つからず、とうとうギブアップ。

入院中の麻ちゃんのおとうさんに電話をすると「あ、やっぱりちょっと分かりにくかった? ワッハッハ」と、なんとも愉快そうな声。教えられたとおりにコードをたどり、ようやく見つけたのは、どう見ても電気カーペットのスイッチ。「えっ? まさかこれ? 本体からめっちゃ離れているんですけど……」と呆然。

カチッとスイッチを入れると、先ほどの怪しげな木箱の中の怪しげな物体(おそらくこれがハードディスクドライブ)がグルグル回り始めました。この時はっきりと「この人はやっぱり麻ちゃんのおとうさんだ!」と再認識しました。

麻ちゃんもまた、みかんの木箱で作ったラックだの、自作のコロコロ付きプリンター台だの、謎の手作り家具が大好き。明らかに似ています。同じ匂いがします。遺伝って怖い!

 

答えは出ずとも考えておく

それ以来、麻ちゃんのおとうさんの具合は落ち着いて、特に介護を必要としていません。しかし、介護問題は考えておくべき身近な問題になりました。あの時は1日だけの介護体験だったけれど、同性カップルは企業の福利厚生や介護支援制度が適用されないことがほとんどで、パートナーの親の介護をするのはとても難しいのが現状なのです。

私は某自治体の同性パートナーシップに登録しています。この制度をニュースなどで知り、「これで同性カップルも、結婚と同等の権利を持てるようになったんでしょ?」と思われている方も多いようですが、それは全くの誤解です。あれにはなんの効力もありません。

参考までに言えば、同性パートナーシップでは税金の配偶者控除も受けられませんし、パートナーの戸籍謄本を配偶者として代わりに取りに行くこともできません。「結婚に順ずる関係」と認められている事実婚にも、はるか及ばない関係なのです。

“嫁だから”、“家族だから” 親の介護をしなくてはいけない。そういう考え方があります。私の立場は、心情的な部分を除けば(パートナーの)親の介護というカッコ書きが付き、社会や企業の制度からも枠外に置かれた状態です。この私のちょっと変わった立場から見ると、“嫁” や “家族” の介護義務とやらが当然のように思われている状況は、ちょっと息苦しく感じます。

特に、義理の親の介護。なんだか嫁の義務みたいになっていますが、共働き家庭も増えるなか、それってほんとに嫁だけの義務で良いのでしょうか? カップルや家族で、一緒にやれることを探る……というのは理想論すぎるのかなぁ。

もちろん簡単に答えが出る話ではありません。私の話に引き戻せば、あれから麻ちゃんのご両親も、私を「何かあった時の駆けつけ係」と認識してくださったようです。これを機会に、できることを模索したいと思っています。

画像: 答えは出ずとも考えておく

Composition:Yoshiyuki Shimazu

 

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