画像: #12 同性パートナーのご両親に、ご挨拶する!

ご両親をどう呼ぶか問題

かつて男性と結婚した時、私がどうしても馴染めなかったのが、義理の母のことを “おかあさん” と呼ぶことでした。自分を産み育ててくれた母と、まだよく知らぬ夫の母を、同じ “おかあさん” と呼ぶこと。

世間的には当たり前だと分かっているのですが、私にはとても違和感を覚えることでした。呼びたくない、というわけではありません。ただ、まだよく知らない人を“おかあさん”と呼ぶことを当たり前とする、結婚制度そのものに違和感を覚えたのです。

今、私は同性パートナーの麻ちゃんと暮らしていて、彼女のご両親とも行き来があります。関係性も悪くなく、もう13年ほどのお付き合いがあるのですが、私は未だに麻ちゃんの母を “おかあさん” と呼べません。いや、呼んでいいような気はしているし、嫌がられない気もします。それでも、なんとなくピッタリこないというか……。私と麻ちゃんはパートナー関係にあるけれど、「イエ」の人間ではないし、相手の親兄弟を含めた「身内」とは言い切れない気がして、なんとはなしに図々しいかなと遠慮してしまうのです。

なので、いつも私はご両親を “麻ちゃんのおかあさん” 、“麻ちゃんのおとうさん” と呼んでいて、時々長すぎて舌を噛みそうになります。うっかり “おかあさん” と呼んでしまう時もあるのですが、そういう時も心の中で(麻ちゃんの)というカッコ書きを付けています。ちなみに麻ちゃんも私の母のことを “春ちゃんのおかあさん” と呼んでいるので、お互い同じように感じているようです。

ちょっと話は逸れますが、麻ちゃんには妹さんがいます。私より6つほど年下ですが、それはそれはよくできた人です。我が家の子どもたちの誕生日に、毎回ケーキやクッキーを焼いてくれたり、服を作ってくれたり。そんな妹さんが先日、念願の家を建てられたというので、旅行がてらに遊びに行ってきました。妹さんの希望で、家は義理のご両親(妹さんの夫家族)と同居の二世帯住宅でした。いつもイエ制度に恐れをなしている私からすると、ゆったりと自然体で義理のご両親と暮らす妹さんが、なんとも輝いて見えました。

実は、この妹さんこそが、私が麻ちゃんのご両親とすんなり会えるきっかけを作ってくれた人でもあります。

 

あっけない解決

麻ちゃんと私は、共に長女なのですが、一言で長女といっても本当に違うものです。親との関係がとても密な私に対し、麻ちゃんはほとんど実家に寄り付きません。ですから、私たちが一緒に暮らし始めた時も、ご両親はそのことを知りませんでした。そもそも、それ以前に麻ちゃんは、自分がレズビアンであることを、ご両親にカミングアウトしていないのです。

麻ちゃんは私と違って、幼い頃から自分のセクシャリティが分かっている人でした。幼稚園の頃には既に好きな女の子がいたといいます。「まわりの大人が『麻ちゃんは誰が好きなの?』と聞いてくるから、『◯◯ちゃん!』と女の子の名前を答えるでしょ。するとその大人たちが微笑ましそうな顔をして『ふふふ、そうじゃないのよ。好きな男の子はいるの?ってことよ』と言うわけ。それが変だなぁと思ってた」のだそうです。

性別も揺らいでいたようで、子どもの頃はずっと男の子に間違われていたそうです。中学時代にはお付き合いするカノジョもいて、「将来は彼女のために手術して、男になって彼女と結婚しよう!」と思っていたといいます。麻ちゃんはご両親にはカミングアウトしていませんが、仲の良かった妹さんには話していました。だから妹さんは、麻ちゃんの恋愛遍歴をすべて知っているようです。

そんな感じで私と一緒に暮らし始めてから、ご両親へのカミングアウトをどうするのか、幾度となく話題に上がりました。なかなか実家に行かない麻ちゃんは、ご両親と日常的に連絡をとらないので問題は無かったものの、「このまま知らせないのも、なんだかなぁ……」と思っていました。実のところ、麻ちゃんとご両親は関係がこじれていて、難しい状況が長く続いていたため、「改めてカミングアウトしたら激怒されるのではないか?」という懸念もありました。

暮らし始めて1年が過ぎた頃、妹さんから麻ちゃんに電話がかかってきました。ひとしきり盛り上がった後、話し終えた麻ちゃんが目を白黒させながら言ったのです。「びっくりしたよ! 妹がね、『お母さんが、お姉ちゃん(=麻ちゃん)、あんなに髪を短く切っていたけど、レズビアンなのかしら?』って言うから、『うん、そうだよ。いまは春ちゃんと暮らしているよて言っておいた』だって! こんなことってある?」。なんと、ショートカットで怪しまれ、レズビアンだとバレたのです。

確かにその頃、彼女はベリーショートでした。でもショートカットだからってレズビアン疑惑とは! というか「お宅のお嬢さん、学生時代に散々女の子と恋愛トラブルを起こしていましたよね? そこはいいの? スルーなの?」と、こちらもびっくり。しかし “怒られるだろうか?” と思っていたカミングアウト問題は、想像もつかないところでキレイに着地。ご両親は驚きもせず、“やっぱり……” と納得されたようです。

 

お嬢さんを幸せにします!

そんなことがあって、ご両親から「改めてみんなで実家にいらっしゃい」というお誘いを受けました。麻ちゃんの友人としては面識がありましたが、パートナーとして挨拶に伺うのは初めてだったので、とても緊張しました。でもそれ以上に、ご両親が緊張されていました。男性の相手のご両親なら、コブ付きの身で私も気がひけるところです。でも麻ちゃんのご両親は、娘が女の恋人を連れて帰る事態に、私が子連れだとかそういうことは吹っ飛んでいました。

シチュエーションも非日常過ぎると、怒りようもないのか、ご挨拶はつつがなく終わりました。それどころか、ご両親は終始恐縮されていました。ただ帰り際、麻ちゃんが席を外した隙に麻ちゃんのおかあさんがそっと、こう耳打ちされました。「春さん、本当に麻実でいいの?」。その時、ご両親が気にされていたことに気が付きました。

麻ちゃんがご両親の期待に沿うために結婚したことも、ずっと女の子が好きだったことも、ご両親は確信こそ持っていなかったけれど、ちゃんと知っておられたのです。「なんで結婚したのよ? 混乱したじゃない!」と、後で変な責められ方をしたと麻ちゃんが言っていました。と同時に、私が男性としか恋愛経験がないことも知っておられました。だから私が将来、男性を好きになったりして麻ちゃんを傷つけないか? と心配されていたのです。よくドラマなどで見る、「お嬢さんを幸せにします!」というセリフ。それはこういう場面で言うんだなーと思いました。まぁ、これ以上ご両親を混乱させるのは忍びなかったので言いませんでしたが……。

こうして思いがけなく麻ちゃんのご両親と、お付き合いが始まりました。麻ちゃんのおかあさんは生真面目な方で、麻ちゃんのおとうさんはパソコンと山登りが趣味の陽気な方です。我が家の子どもたちが幼かった頃は、何度も登山に連れて行ってくださいました。麻ちゃんそっくりのおとうさんは(というか、おとうさんがオリジナルですね)、常識を重んじる方で、近所がみんな同じ苗字という昔ながらの土地で暮らしてきた方でした。そんな麻ちゃんのおとうさんには、男女の組み合わせ以外を思い描くのが難しかったようで、娘が女性と暮らすことに時々混乱しているようでした。

おかしかったのが、麻ちゃんのおとうさんになにも説明していないのに、私がいわゆる “奥さん” の立場だと思われていたこと。麻ちゃんは過去に男性と結婚していたし、実のところ料理は私よりも上手。共働きなのに見た目の印象で「春さんが家事育児を一手に担っている」と思い込まれて、いつも「春さんがやってくれているんだろう。麻実は春さんに感謝しないといかん」と、口癖のように言ってくださいました。訂正もせず、そのままにしていましたが、ここでお詫びします!

すみません!
本当は、私は半分もやっていなかったかもしれません!あなたの娘さんは、家事も育児もバッチリでした!

画像: お嬢さんを幸せにします!

Composition:Yoshiyuki Shimazu

 

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