画像1: 男性社会のど真ん中に赤ちゃんが出現したら、社会の壁が浮かび上がった

大人としての矜持と
責任感をわきまえた児童文学

TBSラジオ『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』(通称「タマフル」)で毎年やっている推薦図書特集。そこでユペチカさんのコミック『サトコとナダ』をおすすめしたとき、「女性同士のルームシェアもの」という繫がりで、竹内佐千子さんの『2DK』も一緒に推薦したのです。

スタジオには両方とも単行本を持っていったんですが、パラパラと読んだパーソナリティの宇多丸さんがぽそっと、「世の中には『世界っていいな』と思える作品と、『世界ってクソだな』と思える作品があって、これは前者ですね」というようなことを言ったのです。

軽く目を通しただけですぐその感想が出た宇多丸さんにも感動したのですが、自分の好きなものがシンプルに言語化されたことに私はとても感動しました。

サトコとナダ』も『2DK』も、それぞれ異文化交流や他者と触れ合う難しさを扱いながら、主人公の女子たちは常に前へと進んでいきます。竹内佐千子さんのマンガにはいつもこうした「世界っていいな」感があるのですが、最新作『赤ちゃん本部長』ではこれまで以上に自覚的に、世界を肯定的に描こうとする意志が感じられました。

赤ちゃん本部長』は、ある日突然、営業部の武田本部長(47歳)が赤ちゃんになったところから始まります。中身は大人のまま、なぜか身体だけ赤ちゃんになってしまった本部長。はじめは部下たちも驚きますが、わりあいさっさとこの事態を受け入れ、職場を赤ちゃん仕様にちゃっちゃと組みかえていきます。

一見突飛な設定はあくまで話を始めるきっかけに過ぎず、「男性社会のど真ん中に赤ちゃんが出現したらどうなるのか」という問いかけを会社の風景の中からあぶり出す、一種の思考実験がこの話の本質なんですね。

本部長を慕い、その流れで(?)かいがいしく世話をするのは3人の部下。西浦くん(28歳)は子育て経験があって頼もしい。独身の天野課長(35歳)は事務能力優秀。坂井部長(40歳)は頼れる年長者。気のいい3人は仲良く肩を並べて働いていますが、ひとたび会社から離れると西浦くんには同性のパートナーがいて一緒に1歳半の娘を育てています。坂井部長は奥さんとふたり暮らし。誇りを持って独身生活を楽しむ天野課長は、夜な夜なゲーム実況を配信している人気ユーチューバー。それぞれがそれぞれの暮らしをささやかに営んでいます。

会社には赤ちゃんがいることをよく思わない取引先のオジサンがいたり、ライフワークバランスや世代間ギャップに悩む重役がいたり、鬱病を抱えた若い社員もいます。女性の生きづらさ、親子の不和、さらには死までもが、ふんわりとしたトーンの中にひょっこりと顔を出します。

現実のさまざまな問題。社会の多様性。ポリティカル・コレクトネスといった言葉を持ち出すまでもなく、私たちが生きていて普通に目にするような壁を、赤ちゃん本部長という存在がぼんやりと浮き上がらせていき、さらにそれを乗り越えていくヒントまでもそっと提示してくれます。

現実の問題を見据えたうえで、それでも世界のブライトネスを照らしだそうとする態度。言い換えれば、大人としての矜持と責任感をわきまえた作品。

私の中で、広い意味でそれは「児童文学」というカテゴリーに入るのですが、そういうものが好きだし、この世でいちばんかっこいいものだと信じています。そして『赤ちゃん本部長』は現在私にとっては最良の「児童文学」のひとつです。

あと、竹内さんって本当に「マンガの絵」がお上手。最低限の線でいろんな表情を描き分けられるうえ、空間の切り取り方も絶妙。マンガとしての品があり、それもまた世界の肯定感を下支えしていると感じました。

 

PROFILE

古川 耕 Kou Frukawa
1973 年生まれ。ライター、放送作家。TBS ラジオ『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』や『ジェーン・スー 生活は踊る』を担当。

新刊はライムスター宇多丸、前原猛、高橋芳朗、郷原紀幸との共著『ブラスト公論 増補文庫版 誰もが豪邸に住みたがってるわけじゃない』(徳間文庫)。また文房具を愛してやまず、月刊『GetNavi』にて「文房具でモテるための100 の方法」を連載中。

 

 

「赤ちゃん本部長」単行本①巻
 2018年3月23日発売!!

画像: 「赤ちゃん本部長」単行本①巻 2018年3月23日発売!!
画像2: 男性社会のど真ん中に赤ちゃんが出現したら、社会の壁が浮かび上がった 画像3: 男性社会のど真ん中に赤ちゃんが出現したら、社会の壁が浮かび上がった 画像4: 男性社会のど真ん中に赤ちゃんが出現したら、社会の壁が浮かび上がった

 

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