画像: 【後編】子育て、私の場合
枝野幸男さんインタビュー

34歳で結婚、不妊治療の末に42歳で授かった双子の男児は現在11歳。進学が公立と私立の小学校に分かれたため、1時間早く出る私立小の子の朝食と送り出しを、枝野さんが担当している。

ちなみに今朝、用意したのはトーストとバナナとヨーグルト。深夜まで家事と育児と後援会の仕事などをこなしている妻は寝かせ、時間差で育児を分担している。

「息子たちは朝に宿題もやっているのですが、間違っていないかチェックしてという妻のメモを今日は見落としてしまい、あとから責められました。一応子どもにも聞いたんだけど、そういうときってまた子どもは “大丈夫大丈夫” って言うわけよね。大丈夫じゃないのに(笑)。

こんな感じの妻からのダメ出しは毎日ですよ。イクメンなんてとんでもない。僕なんてぜんぜんやれてない」

だが、小学校受験時は仕事が忙しく、今以上に関われなかったと振り返る。

「当時はちょうど、与党で大臣をやっていた頃で、受験勉強のことを妻に相談されても、はっきり言って上の空なんですね。最初は勉強を教えてと頼まれたのですが、受験に出てくる問題は季節の花や風呂敷の正しい包み方など、僕の知らないことばかりで早々に家庭教師を免除された。

その時より今は、時事問題などがあるので以前よりももう少し宿題を見られているから、役に立っているかな」

おもに、算数と社会の宿題を見ている。「私立小はときどき、時事ネタが入るのね。けっこうリアルでおもしろいですよ」とはいえ、子どもが起きている間は、家庭で仕事の話はしないと、決めている。妻から、「子どもたちが聞きかじったことを、友だちに言ってしまうので、仕事の話はやめて」と言われたからだ。

後編は、等身大の枝野家の子育て事情、そして子育ての負担を社会でどうシェアしていくかについて。次第に口調が熱を帯びてゆく。

 

▼前編はこちら

 

やらないとしょうがないから
当たり前のようにやっている

「かみさんは私よりも社交性があって、友達が多く、孤独にならないタイプなのでまだ助かっていますが、祖父母の助けがなく、夫婦ふたりで子育てをするうちのような場合は、とくに妻に何かしらの気づかいは必要だなと感じますね。心の部分のフォローというか……。

それは都会、地方といった住む場所に関係なく。うちは双子で、年を取ってからの子どもなので、私も妻も体力がない。子どもが小さい頃は、走るのを追いかけるだけでも大変でした。なので、妻がその子どもの大変な世話をしている間に、僕は食器を食洗機に入れようとか、朝、出勤前に洗濯を干していこうといった分担は、自然にできてきました。

あ、いや~、こんなこと話したら “あんた、してないでしょ” ってかみさんに言われちゃいそうだな(笑)」

食洗機に汚れた皿をセットしてといった食器の片付けは、最初は夫人がしていたが、あるとき「この置き方だと、水が当たらないよ」と言ったら「じゃあ、あなたがやって」という流れで、彼の担当になった。

同じようなきっかけで、洗濯物を干す担当になったのは前編で紹介した。

「夜中に洗濯機のタイマーを掛けると、朝起きる頃に洗い終わっているので、天気予報を見て外に干すか、家の中に干すか決めます。今朝は私が寝坊をして、干す時間がなかったので、今もそのまま洗濯機の中です」

どこにでもいる、共働きの夫婦の光景。国政に新風を巻き起こした党首であろうとなかろうと、育児には休みはない。

「やらないとしょうがない。生活が回っていかないから、あたりまえのようにやっているだけ」

 

就寝前の時間を利用して
夫婦でコミュニケーションを

画像: 就寝前の時間を利用して 夫婦でコミュニケーションを

子どもが小さい頃は、仕事と帰宅時刻の予定を1週間単位で事細かにボードに書き出し、夫婦で共有していた。子どもをお風呂にいれたり、離乳食、寝かしつけ……。大人2人の手がないと育児が回らなかったからだ。

「いまは、かつてのように1週間の予定を確認しあうようなことはないです。さすがに夜家でご飯を食べるときは早めに言ってと言われますけど(笑)」

夫婦間の連絡はLINEやメールを使わない。帰宅してから、夜話す。

「かみさんは宵っ張りの朝寝坊なんで、私がどんなに遅く帰宅しても起きているんです。その時、家庭のことなどを話しますね。っていうほど、まあそんなに会話してないですけどね」

家事も、疲れているときはやらない、がモットー。「俺も疲れているんだ」という発想はない。また、できてないからといって、互いに責める空気もない。

「だから今日も洗濯物がいまだにソファーの上に山になってるわけで。週末など早めに帰った時に、なんか山になってるし、しょうがないから畳むか〜みたいな感じで。やれる時にやれる分だけやるという具合なので、自分でもあまり無理している感じはないです」

育児での失敗を尋ねると「うーん、あんまりないかなあ」と言いかけて、「あっ!」となにかを思い出した。

「最近、子どもの誕生日を忘れてたんです。その翌日、たまたま “今日、私、誕生日なんだ” という人がいて。 “あ! そういえばうちの子ども、きのう誕生日だった!” と思い出しました。子どもには詫びましたが、かみさんは最初からあきらめているのでなにも言われませんでした(笑)。プレゼントはたぶんかみさんが勝手にやってると思います」

選挙応援などが重なった時期で、それどころではなかったようだ。夫人もまたそれを心得ているのだろう。

 

困っている人を助けるのではない。
もともと社会が持っていた仕組みを
政治の枠で再構築すべきだ

子育ての負担をどうシェアするかは、立憲民主党でも重点課題に据えている。

枝野さんは、「子育ての課題を、困っている人を助けるという視点で考えるのは間違っている」と指摘する。

「高度経済成長期より前、日本が農業中心型社会だった頃は、たぶん想像するに、子育ては、家族や隣近所や親戚で一定のシェアができていたんですよ。これが近代化でシェアできなくなった。その中で子育てを担ってきたのが専業主婦です。

ところがこの専業主婦のありかたも、いま時代とともに変わってきている。そうすると、それに代わる子育ての負担をシェアする仕組みがないと社会も回っていくはずがないんです。ここが決定的に欠けています」

これは子育てだけの話ではない。高齢者の介護も同じだ。

「介護もやっぱりその家族と親戚と地域でシェアしていたのがシェアできない仕組みになってしまっていて。その部分は何か作らなきゃいけない。もともと社会がシェアしていたものなのだから、困っている人を助けるという発想はおかしいのです。大変だから、かわいそうだから、ではない。

子育てにしても、仕事と子育てを両立させてるお母さんが大変だからという、そこが焦点になっちゃうと、じゃあうちはたまたま不妊治療で子どもを授かったからいいけど、子どもが欲しいのに授からなかった人との間に、対立が生まれてしまうわけです」

近代化が進み、もともと社会全体で持っていた仕組みの代わりになるものを、政治の枠組みで作らねばならない時代になっている。

「こんな都市化された社会では、たぶん隣近所でというのは絶対に機能しないでしょう。それはもう政治行政でやるしかない」

地方の市議が子連れで議会に出しようとしたことが話題になったり、「保育園落ちた日本死ね!!!」のブログ投稿が国会で取り上げられたりした。子育ての負担の問題が、それらのパフォーマンスに対する批評へと、話がすり替わっていることにも疑問を呈する。

「本筋の議論ではなくて、お子さんがいる、いない女性同士の対立になったり、お子さんがいる家庭といない家庭での分断になったり、議論がずれているなぁと思う事例もいくつかあります。

いま、子どもがいない年収800万以上の世帯に増税する法案が検討されていますが、あれは酷いですね。対立の構造を生むだけです。子どもを4人産んだら表彰するのはどうかっていう話もね、別に国に表彰してもらいたいから女の人は子供を産むわけではないしね」

たとえば、子どものいる世帯の経済的負担を減らすために、枝野さんはこんな提案をする。

「国民健康保険は、人頭税的部分があって(子どもにもかかる)、子どもの数が増えれば増えるほど負担が比例して増えます。それこそ、そういうところから再検討すべきで。第二子からは半額、第三子からは三分の一にするとか。そっちをやるべきですよ。出産の度に増えていったらたまらないですよ。

これは、高齢者についてもやればいいのです。同一家計だったら人数が増えていったら1人あたりの額を小さくして、比例じゃなく、なだらかにしたら世代間の対立にならないはずです」

枝野さんの思想は、国会ではマジョリティではない。

「国会の中だけで見ると絶望的になりますが、部会や勉強会では違います。こういう考えを理解し、賛同する議員も増えています」

 

「情けは人のためならず」
 の誤用から気づいた政治信条

画像: 「情けは人のためならず」 の誤用から気づいた政治信条

「僕は、“情けは人のためならず” ということわざを重要な判断材料だと思っています。世の中の半分の人が、意味を逆に捉えているんですよね。人に親切にしても、その人のためにならないから、親切にしないほうがいいと。本来は、人のためにと思ってやったことは、巡り巡って自分に返ってくるという意味です。半分の人が間違った解釈をしているのは、社会風潮がそうだからなんです。

高齢者の人たちは “自分の子育ての時は、そんな政治行政のサポートがなかった” と言うんですが、いや、違うと。あなたの年金や介護のために子どもが生まれてくるわけじゃないけれど、子どもの数が減っていけばあなたの年金や健康保険を支えられないんだから、産みたい人が安心して産めれば、結果的にその子どもたちが20年後にあなたの老後を支えてくれる。それが社会なんです。

逆に若い人には、“なんで俺たちのほうが年金で損をするんだ?” とよく言います。それも違う。年金制度のおかげで、あなたの両親や祖父母の老後の扶養の負担が小さくなっているのです。年金や介護保険がなかったら、全部家族で見るんだよという話を一生懸命説明して、だから情けは人のためならずなんだっていうと、理解してもらいやすいんですね」

これに気づいたのは、つい数年前のことだ。

「あるとき、なぜこのことわざを、逆の意味で捉えている人が多いんだろうと考え始めたのです。そして、ああまさに社会の風潮がそうなんだとわかった。そして、このことわざの誤解を解いていくことが、社会制度の理解につながるのだと気づきました」

 

男3人赤坂、
カラオケボックスの大晦日

これから子どもを産もうかどうしようかと迷っている人、今、小さな子どもを抱えて迷ったり、しんどい思いをしている人たちへのメッセージを求めた。

「これからの社会は大変だけど、いつも大変なんだと思います。いつの時代も一緒なんだけど、今はネットなどで、大変だという情報がことさらたくさん入ってきやすい。

ゆがんだ情報が入ってきて混乱することもあるけれど、でも、たとえば全国に散らばっている学生時代の友達でも、ネットだとすぐに繋がれる。同年代だから子どもの年齢も同じぐらいでしょう。

ということは、隣に相談相手がいなくても、全国に相談相手がいることになる。それからプロのカウンセラーの情報だって、ネットで探せる。それらを、育児の負担をシェアすることに上手く使っていくのも一案です。もちろん政治や行政もサポートをすべきだけど、当事者がちょっと工夫すれば、いまはいろんなことができるんじゃないかなと思いますね」

政治家の顔から父の顔になって、メッセージをもう一つ付け加えた。

「双子が交互に泣いて、夜中に議員宿舎の外をだっこしてあやしていた頃は、こんなのいつまで続くんだあ? 想像よりずっと大変じゃないかと思っていたのですが、本当に、過ぎてしまえばあっという間なんですよね」

泣いて父を困らせた子らと、一昨年の大晦日に男3人でカラオケに行った。妻から「掃除をするのに邪魔だから子どもを何処か連れてって」と頼まれたためだ。

父のカラオケ好きを知っている息子たちは、カラオケボックスをリクエスト。「これ幸いと」(枝野さん)出かけた。それがとても楽しかったと、振り返る。

「息子二人の性格がぜんぜん違うんで、おもしろいです。ひとりは勝手に大きな声で怒鳴ってるだけなんです。それはそれでかわいいんですけどね。

もうひとりは高性能採点カラオケで私に勝とうとするわけですよ。負けん気が強くて歌が好き。こいつ、似てんな俺にとか思って」

二人の成長や個性の違いを感じた一夜。何でもない日常の、ささやかだがかけがえのない思い出が今も胸にある。

「また歌ネタかって、かみさんにつっこまれそうだなー」

小さくつぶやく。穏やかであたたか。ひとりの普通の父がそこにいた。

 

PROFILE

画像: PROFILE

枝野幸男 Yukio Edano
1964年、栃木県生まれ。立憲民主党代表。東北大学法学部卒業後、弁護士に。‘93年衆議院議員として政界へ。民主党結成以来、政調会長、幹事長など要職を歴任。内閣官房長官時代、東日本大震災の不眠不休の対応に対し、「♯edano-nero(枝野寝ろ)」の声がツイッター上で拡散。’16年、民進党幹事長を経て’17年10月立憲民主党を設立。‘98年、客室乗務員の女性と結婚。’06年、双子の父に。趣味はカラオケ。

 

▼前編はこちら

 

Photo:Masaru Furuya Text:Kazue Ohdaira Composition:Shiho Kodama

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