画像: 子育て、私の場合。
作家・山崎ナオコーラさん【前編】

日々成長していく子どもとの暮らしは、ワクワクとドキドキがたくさんつまった、かけがえのない幸せな時間。1人1人個性が異なるように、子育てのスタイルだって、親子の数だけあっていい。分かりあうことだけが存在する世界でなくてもいい。

昨年、37歳で第一子を出産し、出産・子育てエッセイ『母ではなくて、親になる』が多くの人たちの深い共感を呼んだ作家、山崎ナオコーラさんに、今の毎日の生活や、子育てする中で感じていることについて話を伺った――。

 

母親という言葉をゴミ箱に捨てて
「母ではなくて、親になろう」と決めた

作家の山崎ナオコーラさんが、流産の経験や不妊治療について、出産、保育園探し……と、赤ちゃんが1歳になるまでの毎日を綴ったエッセイ集『母ではなくて、親になる』

出産や育児を経験者同士の共通言語にはしていない同本は、性別や世代の枠を軽々と超え、子どもがいる人はもちろん、子どもがいない独身の読者からも熱烈な支持を集め続けている。その間も赤ちゃんはすくすくと成長し、2歳も目前。

 
「子どもとの生活はものすごく楽しいです。やはり、カタコトの言葉を話すようになったのがおもしろくて。コミュニケーションと言えるほどのものなのか分からないですけど、一応やりとりがあって、人間らしい関係になってきたなぁと感じます。

私の場合は、ありがたいことに、子どもを産んだときから自分自身の体調もよく、夫もけっこう育児をするので、大変さはあまり感じなかったんですね。そのうちに……もしかしたら、思春期の頃とかに大変になるのかもしれませんが、今のところはずっと楽しいです」
 

“保活” の甲斐なく(?)、認可保育所も認証保育所もすべて落ちてしまい、いわゆる1歳児の4月入園はできなかったという山崎さん。今は一時保育制度を利用して、週3日、私立の認可保育園に子どもを預けながら仕事をしている。

 

赤ん坊を夫や保育士さんに任せるときに、後ろめたさを感じて、子どもに謝る人もいるそうだが、私は仕事のことで赤ん坊に謝ったことはない。

夫に赤ん坊を任せてカフェへ行くときは、「じゃあね。仕事してくるね。親が仕事した方が、△△(赤ん坊の名前)も幸せになるよ」と言い置いて出かけている。

男性が堂々とやっていることは、私だって堂々とやる。胸を張って仕事をして何が悪い。親の仕事が子供に不利益なんて聞いたことないぞ。
――『母ではなくて、親になる』(河出書房新社)

 

「週3日で、朝9時から夕方4時まで。他にも掛け持ちしている園に預けたり、母に見てもらったりするときもあるので、何とかやれてはいますね。ただ、今後はできればフルタイムの保育園に移りたいと思っています。園までの送迎はぜんぶ一人で。

夫は町の本屋さんの書店員なんですけど、荷開けなどの作業があるので、朝4時半に家を出て、夕方6時頃に帰ってくるというスタイルなので、時間が合わないんです。

子どもが入園したのは1歳を少し過ぎた頃。初日はやっぱり泣いていましたね。でも、後から保育士さんに聞いたところ、泣くのは「バイバイ」って言うときだけみたいなんですよ。私の姿が見えなくなると、けっこうすぐに泣き止んで、1日目から、ごはんもお代わりして(笑)。2週間くらい経ったら「バイバイ」のときも大丈夫になりました。ここは楽しい場所だって、分かったみたいです」
 

入園後、しばらくの間、子どもが病気にかかりやすくなってしまうのは、集団生活を送る上での洗礼みたいなもの。山崎さんも子どもの病気には悩まされている。

 
「最初の半年間くらいは、子どもが免疫をつける期間。病気をもらってきては治し、また病気をもらってきて……という繰り返しだから、なかなか保育園に通えないよ、という話は周囲からよく聞いていたんですが、もう本当にリアルにそうで! 風邪が治ったと思ったら、今度は手足口病になったりして。また、子どもから私にも病気がうつるんですよね。

しかも、やっと保育園に入ったから、よし、仕事をしよう! と思って、スケジュールをどんどん入れちゃっていたので。そこは大変でした、物理的に。

子どもの病気のせいで人に迷惑をかけてしまったり、スケジュールを調整してもらったりするのが申し訳なくて。ただ、子どもと一緒にいる時間が増えること自体は、私の場合は感覚的に言えば幸せで、つらいわけではないので。まぁ、そのうち丈夫になるのかなと思っています」

 

家庭は会社じゃないんだから、
夫婦はイーブンな関係じゃなくていい

画像1: 家庭は会社じゃないんだから、 夫婦はイーブンな関係じゃなくていい

「子どもが生まれたあと、旦那さんに不満が出てくるよ」と色々な人から言われたが、私は夫の悪口を書く気はない。

よく夫や男を批判していい気になっているエセフェニミストがいる。いつまで弱者を気取るのか。今の時代、女性は強者だ。
――『母ではなくて、親になる』

山崎さんが結婚して、夫婦2人だけで生活した期間は3~4年ほど。妊娠中、いろいろな人のブログや本を読んでいると「夫が全然、家事育児をしない!」という妻側からの不平不満をたくさん目にした。

 
「だから、自分もそう思うのかな? と内心ビクついていたんです。でも、うちの夫は、子どもが生まれたときから、逆に驚くくらい、ものすごくやる気に満ちていて。ただ、やる気はあるんですけど、夫は仕事に行っている時間が長いぶん、物理的にできないことが多いんですよね。

客観的に見れば、やっぱり家事も育児も私のほうに負担が大きくかかっている。でも、夫の気持ちとしては、もっと育児をやりたいと思っているのがビンビン伝わってくるので、夫に対しての不満がなかなか湧いてこないんです」
 

共働きが増え、夫も妻も平等に稼ぎ、家事や育児をする、というスタンスの家庭も増えている中、すでに山崎さんは出産前から、夫婦の家事分担はイーブンでなくて構わない、という結論に達していた。

画像2: 家庭は会社じゃないんだから、 夫婦はイーブンな関係じゃなくていい

「結婚当初は、稼ぎによって家事分担を決めたいとか思っちゃったんですけど、それをやっていると、すごく不自由が多いし、イライラもする。

それで、あるとき、ふと『あ、家庭は会社じゃないんだ』って気づいたんです。家族みんなの健康と精神衛生が保てる、それだけを求めてやっていればいいんだと。夫と私がイーブンな関係になる必要はないと思ったとたん、すごくラクになったんですよね」
 

実際、一昔前と比べれば、妻が働いていようと、専業主婦だろうと、時代的に夫婦で一緒に育児をするというのが自然な流れになっている。今はある意味、女性が優遇されている時代ともいえるのだ。

働くお母さんも専業主婦も
みな等しく“社会人”

「男の人で育休を取る人の話もけっこう聞きますよね。もちろん女性に比べたら、まだまだ少ないとは思いますけど、でも確実に増えているなぁという感覚はありますね。だから、女性側も、いつまでも『男性はやってない!』と怒ってばかりいるのは、もったいない。育児する男性が増えてきているね、っていう喜びを表現したほうが、いい社会になっていくような気がします。

あと、私自身『社会がもっとよくなってほしい』と言うことに、ちょっとためらいがあるんですよね。今の社会っていうのは、30代、40代の私たちが作っているわけだから。できるだけ不満を言わないようにして、自分自身がちょっとずつでも、身近な人とのいい関係や、いい雰囲気を作っていくことが、いい社会につながっていくのかなぁと思います。

そもそも “社会の話” になると、みんなすごく広範囲の、何万人という単位の人たちの話をしがちじゃないですか。でも、大きい会社で、大きい仕事をしている人だけが、社会作りをしているわけじゃなくて。カフェのコーヒーにお金を払う、というのも社会的な活動ですし。

今、子育てしかしていないっていう人も、家事をしている専業主婦の人も、社会人として、ちゃんと社会活動をしているんだと思っていたほうがいいんです」 
 

プロフィール欄に入っていることも多い、山崎さんの作家としてのモットーは “フェミニンな男性を肯定したい”。出産前に書いたエッセイ集のタイトルは、ずばり『かわいい夫』。そして、この秋、初めて手がけた絵本のタイトルは『かわいいおとうさん』である。

 
「お母さんを大々的に取り上げた絵本はたくさんありますよね。一方、絵本の中のお父さんは “お母さんではない役割の親” としての描かれ方が多いなぁと思ったんです。いや、そんなに役割にとらわれなくてもいいんじゃないかなぁと。

それで、お父さんはただただ可愛い、愛おしい存在で『大好き!』っていう子どもの気持ちを絵本にした感じです。

“フェミニンな男性を肯定したい” というのは、私のライフワークみたいなもの。絵本であっても、結局、自分の仕事をやっていますね。この絵本を読んだ夫は『すごくいい!』って言ってくれました(笑)」

画像: 働くお母さんも専業主婦も みな等しく“社会人”

 

娘のために作った絵本と
大好きな父親との思い出

休日には家族3人で図書館に行くことも多い。乳幼児のためのスペースでくつろぎながら、自宅には置けないような超大型絵本や紙芝居を読み聞かせすると、子どもが目を輝かせて喜んでいるのが分かる。本物の絵本だけでなく、古くなったカレンダーを使って山崎さんが作った、世界に一冊だけのオリジナル絵本も子どものお気に入りだ。

 
「取っておいた昨年のカレンダーの絵の部分を切って、半分に折って、裏を糊で貼り付けると、本の形態になるんです。絵の余白部分には、ひらがなで好きな言葉を書き込んで。さすがにうまくストーリーにはならなかったんですけど(笑)。

アマゾンとかで売っている製本用のフィルムテープでコーティングすれば、補強にもなるし、仕上がりもきれいですよ。

これは画家の熊谷守一さんのカレンダーで作ったんですが、熊谷さんの絵は色がはっきりしているから、子どもウケがいいです。絵を指差しながら、嬉しそうに『ねこ!』って言ったりして(笑)。表紙には、アーティストのちえちひろさん姉妹のお皿を買ったときの花の絵の包装紙を貼りました。」

画像: 娘のために作った絵本と 大好きな父親との思い出

 

小説を書く仕事のルーツになった
父の手作り絵本

実は山崎さんが最初に絵本を手作りしたのは、ご自身が子どもだった頃。当時は紙に好きな絵やお話を書いて、ホチキスでとめるというシンプルなスタイル。実家には、山崎さんが2~3歳で書いたという手作り絵本が、まだちゃんと残っている。

 
「私が何だか分からない丸とかの絵を描いて、その隣に父親が、私が口頭で言った文章を添えて書いてくれていたんです。私が言ったとおりに書いているから、『ねこがあるいて、ねこがおんなのこと』で終わっていたり、また次のページが『おんなのことねこが』で始まっていたりと、話がめちゃくちゃなんですよ(笑)。

父は大人なんだから、ちゃんと文を整えてくれればよかったのに……と思いつつ、ちょっと嬉しいなぁと思いましたね。意味も分からないのに、ストーリーも成り立っていないのに、私が言ったとおりに書いてくれたのは、すごくありがたい感じがして。

今こうして作家をやっていても、頭がよさそうな文章を書かなくてもいいんだとか、ちゃんとしたストーリーじゃなくてもいいんだ、っていうふうに思えるのは、父親のおかげかもと思っています」
 

今の山崎さんの作家としてのオリジナリティを生んだ陰の恩人ともいうべき存在であるお父さんは、山崎さんが出産する1年前にがんで亡くなってしまった。

35歳のときに流産を経験し、その半年後に父を亡くした後、山崎さんは妊活を開始し、ほどなくして妊娠した。

後編へ続く

Photo:Masaru Furuya Text:Keiko Ishizuka Composition:Shiho Kodama
Special Thanks:Title (http://www.title-books.com/)

 

PROFILE

画像: PROFILE

山崎ナオコーラ Yamazaki Nao-cola

1978年、福岡県生まれ。2004年、会社員をしながら執筆した『人のセックスを笑うな』(河出書房新社)で第41回文藝賞を受賞し、作家活動を始める。

2017年、『美しい距離』(文藝春秋)で第23回島清恋愛文学賞受賞。小説に『ニキの屈辱』、『ネンレイズム/開かれた食器棚』(ともに河出書房新社)、『ボーイ ミーツ ガールの極端なもの』(イースト・プレス)他多数。エッセイ集に『指先からソーダ』(河出文庫)、『かわいい夫』(夏葉社)、『母ではなくて、親になる』(河出書房新社)などがある。10月に初めての絵本『かわいいおとうさん』(こぐま社)を刊行。

 

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